第千三百一話
「……ん」
秀星が目を覚ました時、時間は夜だった。
ベッドに寝間着で寝転がっており、そんな秀星を椿が抱きしめて、そんな椿の後ろから、風香が抱きしめている。
どちらもすやすやと眠っており、起きる様子はない。
(……俺、寝間着じゃなかったはずなんだが)
まあ、セフィアが魔法を使えば、一瞬で服装が変わるだろうし、そもそも、椿や風香は秀星とお風呂に入ることに抵抗がないくらいなので、別に遠慮はしないだろう。
なかなかズレた嫁と娘だが……どうしようもないので置いておくことにした。
(しかし……はぁ、なんてくだらない)
いろいろ思うことはあるが、とりあえず、『唯一神秀星』と『マクロード・シャングリラ』の『約束』を思い出した秀星。
(最後の最後に大喧嘩をしよう……か。暇を持て余した強者って言うのは、くだらないことを考える)
そして、その喧嘩をやろうと思った理由も、陳腐というか、稚拙というか……。
(物事の節目に、『有終の美を飾った方が良い派』と、『ひどい目に合っておいた方がバネにできる派』……俺は有終の美の方だが、今の俺からすると、あの頃はバカだったんだなぁ)
思い出すことができることはいろいろある。
ただ、そのどれもこれもが、バカ騒ぎしていただけという、なんともくだらない話だ。
(ただ……俺はグリモアにいた時、楽しかったんだろうなぁ)
『一人目の師匠』とマクロードの記憶を抜かれて、基本的には剣術神祖ミーシェに扱かれたか、神器集めに奔走していた記憶が残っている。
もちろん、そんな中でも様々な楽しいことはあったのだが、影響を抑えるために、神器を手に入れだしたことは、あまり人間関係を広げようとはしていなかった。
だが、それよりも前からの付き合いであるマクロードや師匠はよく話す相手で、秀星も楽しかった。
(……今まで、朝森秀星としては、マクロードがどんな奴なのかわからなかったけど)
秀星はマクロードとグリモアで過ごした日々を思い出す。
(親友……ってやつか。最後の最後に意味わかんねえ『約束』しやがって)
呆れる。以外の感情が湧いてこない。
バカ騒ぎができる相手。という理由を一番大きいとして、『親友』だと認識しあう仲だったが、まあ結論から言えば、『特に大きな意味はない』というもの。
ただ……だからこそ、『親友』というのは尊いのだろう。
(まったく……)
ユイカミの全ての記憶を引き継いだことで、坂神島における、マクロードとユイカミのやり取りも秀星の頭の中にある。
だからこそ、もう、この地球においても、秀星とマクロードは、実質的に初対面とはいえない関係になった。
相変わらずアホで、元気そうなのは変わらない。
(……ラスボスが、お前でよかったよ)
あまりにも、ユイカミとマクロードのエゴとアホさが入り混じった物であり、傍から見れば稚拙で、よくわからないものが混ざり合っていて、感動するには至らない。
長年の付き合いだったということが今分かった。などという、荒唐無稽で、秀星たちにしかできない付き合い方の果てに、他者の『理解』はない。
ただ、それでいい。
緊張感など何もなく、緊迫感などなにもなく、ただ……有終の美を飾るためだけに、明日は、剣を振ろう。




