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第百三十話

「戦車による被害の増加か」


 秀星は魔戦士専門の掲示板、『グッド・グレイト・レスポンス』……通称『ググレ』を見ながらそう言った。

 このサイト、名前がぶっ飛んでいるというか略称が色々な意味でアウト一歩手前なものだが、情報は速くて正確である。

 バック・マーチャンツが戦車を大量に取り扱っているとのことだった。

 製造元がまだ判明していないのだが、多くのものがどこから製造機材を手に入れたのかすごくわかりやすい状況になっていることは置いておくとして、そんな戦車が出回っているのは事実である。


「戦車を実際に購入しているのは『ニアー・バンクラプシィ』という日本の犯罪組織の中でも特に兵器に力を入れているところだ」


 沖野宮高校生徒会室。

 掲示板を見ている秀星の目の前で組織のついての説明を始めようとしている宗一郎。

 なんだかんだ言って呼ばれたので来てみたら、そういう話が転がり込んできたので驚いた。


「……その組織の名前、スペルはどんな感じなんだ」

「こんな感じだな」


 宗一郎が書いた紙には『Near bankruptcy』と書かれていた。

 秀星はこれ以上は突っ込まないことにした。


「まあとにかく、叩き潰せばいいのか?」

「いや、こういったものはひそかにレシピが出回っている可能性がある。なにせ兵器だからな。作るための機材や素材は限られているとしても、作ろうと思えばだれにでも作れる」


 魔法とは違って、兵器である。

 訓練すればだれにでも作れるのだ。

 あとは、メンテナンスや補給が間に合えばいくらでも作れる。


「かなり汎用性の高い性能になっているそうだな。私もスペックを確認した時は驚いた」


 宗一郎が言う汎用性というのは、カスタマイズの許容範囲のことである。

 それが広いので、改造がかなり可能。

 接続部の設計を間違えなければ、基本的に何でもいけるのだ。

 それがシステムというものである。


 雫たちが攻め込んだときは機関銃が大量に取り付けられていたが、これは接続部を合わせた機関銃を取り付けていただけだ。

 さらに言えば、外部車両を取り付けることも可能で、製造さえ追いつけば、大名行列ならぬ戦車行列も可能である。


「まあ、そう考えると、まだ使いこなせていない感じがするけどな」

「私もそう考えていたところだ」


 おそらく、製造力が高すぎて素材の供給が追い付いていない。

 神器の工場というのは、圧倒的な生産速度もそうだが、それらを行うためのエネルギーの確保も解決しているからだ。

 所有者の魔力生成量を爆発的に増幅させて、それを使っている。

 魔力が材料であり、燃料でもある。

 無から有を生み出すことは、神器でもできない。

 工場というのは、何かを加工するために生まれるものだ。

 素材の生成というのは、また別の神器が必要である。

 オールマジック・タブレットの『創造魔法』を使えば素材を作ることもできるのだが、それはそれである。


「だが、戦車の開発に急に乗り出したな」

「そのことなんだが……九重市の新ダンジョン。あそこから取れる素材の多くが戦車の素材に使われているらしい」

「……出現モンスターの内容、変更させたほうがいいか?」

「その必要はないと私は考えている。偶然、犯罪者にとって都合がよかっただけの話だ。というか変更できるんだな」

「まあな」


 ダンジョンコアによってすべてが決定する。

 それがダンジョンなのだ。

 なので、発見したうえでうまくごにょごにょとして改竄すれば、出現モンスターくらいなら簡単にいじることができる。

 普通なら洞窟のようなものだが、地形だって思いのままなのだ。


「で、なんでダンジョンの素材だってわかったんだ?」

「あのダンジョンに行って手に入れた素材の多くを、魔戦士たちは八代家の受付で換金している。八代家が優先権を持っていて、受付の設置権限を独占しているからそうなるのも必然だが、八代家の中でも一部の野心家たちが、バック・マーチャンツのダミー組織に売りまくっているのが分かった」

「……自覚がないんだろうな」

「もともと、野心家は騙しやすいからな。嘘をつくのではなく勘違いさせれば普通に乗っかる。それに、そういった者たちは相場を正確に理解しているわけではないからな」


 宗一郎が言っていることだが、たとえるなら、百万くらいの価値があるもので取引するとしよう。

 だが、百万円の価値があるとわかっていなければ、大金と判断できる金額を掲示することで本来より安く買いたたけるのだ。

 物の相場をわかっていないというか、どの程度で妥協するのかがモロバレしているともいえる。


「嘘をつくのではなく勘違いさせる……か。詐欺師が大喜びだな」

「ああ」


 詐欺師というのは、嘘をつくのではない。

 まあ確かに嘘もつくのだが、こちらが無知であることを利用してくる。

 八代家の規模であるならば、確かに派閥争い程度のものならいつでもやっているだろう。

 だが、本物の詐欺師など相手にできない。

 嘘に聞こえないだけで、うまい話だと思い込むのだ。自分が騙されないと思っている人間ほどこうなる。


「それにしても、八代家はいろいろとうわさが絶えないな……」

「どうにかするつもりなのか?」

「風香に何か影響が出るなら何かするだろうな。だが、基本的には干渉しないさ」


 まあいずれ、する時が来るだろう。

 だが、今ではない。


「まあいい。この戦車の対応だが、こういったものは、一度有用性があると思われるといくらでも作られるからな」


 技術というのは、意外とつぶすのが難しい。

 犯罪組織の中で設計図が広がっていれば、一つをつぶしたとしても意味がない。


「天敵を作ればいいわけだが……まだその段階ではないか」

「何か案があるのか?」

「戦車にも融点がある。といえばわかる?」

「……ああ。なるほどな」


 宗一郎も納得したようだ。


「確かに、その方法でもいいが、まだ無理だな。技術的に、まだ広めることができるわけではない」


 仮にレーザーでどうにかするとなれば、そもそも発射口の開発はいいとしても、動力部が大きくなる可能性もある。

 そうなればそれは逆にレーザー戦車になるだけである。

 携帯できるレベルにするのがいいのか悪いのか、問題もかなりあるのだ。


「まあ、ここからどういった感じで強化されていくにもよるが……俺のほうでも考えておくよ」


 話し合いは終わりだ。

 あとは、状況を認識したうえで、何をするのかと決めて、実行するだけである。

 悪乗り同盟に声をかけてみようかな。と秀星は心の中で黒い笑みを浮かべた。

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