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第千二百九十八話

「いやー。なんというか、面白いというか、『めちゃくちゃ』になってきてるな」

「どの部分の話だ?」

「う?」


 高志、来夏、沙耶の三人は、坂神島の地下に存在する店を回っていた。


 地上の方は大量注文にも耐えられるが、地下の場合はこじんまりとした店が地上以上に大量に存在する。

 なんだか『雑多』といえるものになっているのだが、要するに大量の注文には耐えられないので、高志たちは食べる量を制限しつつ店を回っていた。


 酒類とそれに合うものを注文し、路地の隅の方でちびちびと消費する。


 その中で語り合うわけだが、正直に言って、『秀星とマクロードの関係性』という点では、高志が飛びぬけて情報量が多い。


 来夏もある程度知っている部分はあるようだが、全貌とまでは言い難い。

 沙耶に至っては……どうでもいいのではないだろうか。


「今の秀星って、何のためにマクロードと戦うのか、あんまり分かってねえんだよ」

「え、そうなのか?」

「ああ。何故戦う理由があるのかっていう理由の方は、ユイカミの方が引っこ抜いたみたいだな。おそらく、マクロードに関するいろんな記憶をユイカミの方は持ってるはずだ。だけど、マクロードと戦うことに関しては意識するように、秀星の中に残してたってところだろ」

「へぇ……秀星とマクロードって、もともと知り合いなんだな」

「そういうこった。『めちゃくちゃ』ってのはそういう意味だよ」


 秀星は異世界に漂流した時間に『戻ってくる』という形で地球に帰還しているため、高志といえど、グリモアにおける秀星の行動をリアルタイムで把握するという手段は持っていない。


 だが、バールで空間をぶち破るような男だ。自力で異世界に行って、痕跡を集めて何があったのかを調べることくらいはできるだろう。偏差値八十オーバーという優秀な頭脳もあるわけだし。


「今の秀星のあやふや具合がわかるわぁ……」

「だろ?」

「ああ。異世界から帰ってきてすぐくらいで剣の精鋭に入ったけど、あの時点ですげえあやふやだったんだな」

「そういうこった。親父から任されてたと思うけど……秀星はもともと、どこかの組織やチームに対してホイホイ入っていくような奴じゃねえからな。剣の精鋭に入ってるけど、あんまりチームとして活動してねえだろ?アイツはもともとそういう感じだ」


 『器』というものが人に対してどのような本質をもたらしているのか。それを語ろうとはしない二人。


 ただ、『ほぼ魂』という表現がされることもある以上、『根幹』や『本質』ともいえる可能性は十分にある。


 では、今の秀星にとって、器の代わりは……。


「椿……ああ、なるほど、だからこの時代にやってきたのか」

「そういうことだ。椿の特異性っていうのもいろいろあるが、一番大きいのは、『満たす力』とでもいうのかね?」


 愛情や幸福といった概念。

 それらを、椿は誰かと接することで、その接した相手を満たすことができる。

 いずれも精神的な概念であり、それらが満たされるからこそ、『快楽』すら感じるものがいるというだけの話だ。


 ただ、それそのものがあることで、秀星自身はかなり安定している。


 ……そして、剣の精鋭として、顔を出すことも、かなり減った。


「……抜けた器の分を満たすために剣の精鋭に入ったけど、椿がいる今、その必要はもうなくなったってわけか」

「ああ。今はもうほとんど惰性じゃね?まあ、それでもいいんだろ?」

「もちろん」


 どこまで強くなろうが、惰性だろうが、来夏にとって秀星はチームメンバーだ。


「ただ、そろそろユイカミの方も折り合いをつけるだろ。というか……今の秀星とマクロードが戦っても、本質の見えないものになるだけだし……まあ、ここは、ユイカミの選択を待ちますかね……」


 ラスボスだのどうのと言っているが、別に険悪というわけではない。

 お互いに滅茶苦茶なことができる実力があるゆえに、家庭も滅茶苦茶になっているだけだ。


 結局、くだらないところに落ち着く。


 それがわかっているからこそ、高志も来夏も、特に気にしていない。


 まあ、それくらい緊張感がない方が、彼ららしいと言える。

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