第千二百九十三話
「幽月さん!」
「どうした?」
「なんか小さいユーフォ―が飛んでますよ!」
幽月は右手の人差し指をそのユーフォーに向ける。
すると、闘魂戦術を用いたと思われるオーラっぽい色のレーザーが放たれて、ユーフォ―を貫通。
何か重要な物を貫いたのか、ユーフォーは爆散。
そのまま地面に落下して、清掃ロボットに回収されて消えていった。
「……時雨さんもそうだったんですけど、容赦がないですね」
「まあ、ユーフォ―なんて飛んでいてもいいことはないからな」
そんなことは……あるのかないのか、時と場合によるとしか言いようがない。
「というか、なんかユーフォ―が思ったより飛んでますね。普段は月に一回しか見ないんですけど」
「月に一回ユーフォ―見てるのか……」
あまり長距離移動に適さないフォルムをした物体だし、小さい場合は馬力もないのでドローンのように何かを運ぶこともできない。
(小型カメラを仕込んで飛ばすくらいしか用途がない気がするが……)
意外と普段から飛んでいるものなのか、発見しているという椿の傍で飛んでいるケースが多いのか、不明な部分は多い。
そして思ったよりもどうでもいい。
「む?おおっ!あの天丼。美味しそうです!」
笑顔で露店に走り寄っていく椿。
目についたものを遠慮なく拾っていくスタイルは相変わらずだ。
「むう……美味しいです!」
天丼の上に乗るエビフライにかぶりついてご満悦の椿。
まあ、満足しているのなら何よりである。
「……はぁ」
力が抜ける。
何かと騒いでいることが多い椿を見ていると、どうも緊張感というものがなくなる。
まあ、それそのものは別に何も悪いことはない。
椿という人間が持つ性質であり、役割のようなモノ。
別に否定したからと言って何かが変わることもないだろう。第一、椿が変わるとも思えないし。
「……変わらない。ということがどれほど凄いことなのか。という話か」
椿ほど変わらない人間を、幽月は見たことがない。似たような人物をいずれ見ることになる可能性はあるが、それもきっと、椿ほどではないだろう。
「あれが、全知神レルクスのお気に入りか。まるで真反対の性質をしているのに」
別に椿は『無知』というわけではないのだが……。
「あれが、二十年後に沖野宮高校にねぇ……」
はしゃぎまわる椿。
それをみて、幽月は何を思うのだろうか。
まあ、馬鹿だと思っていることは間違いないのだが。
とはいえ、椿という人間によって感じることができるモノと、それによって得られる概念を考えれば、目的というのは限られてくる。
「……ふむ、悪くないな」
何か、大きいのか小さいのかよくわからないものを決めた様子の幽月である。




