第千二百九十話
ゴリラデーモン
という言葉を急に認識して何を思うかは個人によるが……。
「なんだかおもしろそうなお店ですね!」
この名前を見て、『歓喜』という感情が出てくる椿と、この店の名前を設定した店主の感性が等しいかどうかはともかく、これで店の中が普通だったら、ネーミングセンスがあるとかないとかそれ以前に『異色過ぎる』と言えるだろう。
「ちょっと行ってきますね!」
というわけで、幽月を街道において店の中に入っていく椿。
……十数秒で出てきた。
手にはメンチカツが二個ある。
幽月のところに戻ってくると、彼にメンチカツを一つ渡した。
「どうだった?」
「お肉関係でジャンクフード的なところでした」
「……」
どう反応すればいいのか幽月にも困る内容だった。
坂神島において肉類は高めである。
基本的に穀物と魚が食卓に並ぶ文化となっており、ほぼ輸入に頼っている肉は高い。
そりゃもちろん、食卓に全く並べられないほど高いわけでもないのだが、それだけを食べて過ごすというのは不可能な経済構造である。
巨大倉庫があり、そこには大量の食材が保管されているが、別に肉は多いわけではない。手に入りやすいものは大量にため込むことができるものの、手に入りにくいものは依然としてため込めないのだ。当たり前である。
「……あ、メンチカツは美味しいですね!」
実際に食べてみると、メンチカツはとてもおいしい。
何度も何度も作って研究してきたのが分かる。
「……」
ただ幽月としては、もっと別のことが気になっていた。
そもそも今いるエリアなのだが、普段から幽月も通る場所なのである。
だが、こんな店があるということすら知らなかった。
軽い話題にするには十分な店名と、そこに売られている肉類の質が高い商品。
坂神島のニュースや掲示板に関しては目を通すが、話題になった記憶がない。
(……今まで何で発見できなかったんだろうか)
話題に出てくるほどのものが埋もれるというのは、別に珍しいわけではない。
ただ……これに関しては、椿の視点が常人とほぼ異なるゆえのものだろう。
人とは物事の感じ方が違う椿は、他の人間には見えていないものが見える。
「……不思議だ」
「む?」
首をかしげる椿。
どういうことなのかの説明をする気はないとばかりに、メンチカツを食べ終わる幽月。
……やはり、普通においしい。かなり謎だ。




