第千二百八十五話
「さて、私も体を動かすか」
幽月は『うにゅううう~~~』と頭をおさえて悶絶している椿を尻目に、木の剣を手に指定位置に移動する。
「……布明はいいの?」
「僕は遠慮するよ。この中の誰と戦っても疲れそうだし」
「……あっそう」
時雨に聞かれて適当にはぐらかす布明。
そんな布明をチラッと見た後、風香が木刀を二本持って移動する。
「まずは私がやってもいいかな」
「いいぜ!」
来夏がゴーサインを出したので風香は木刀を構える。
「……構え方が椿と似ているな」
「私の戦闘手段は、椿ちゃんの戦術の『原典』みたいなものだからね」
「なるほど、どこか秀星臭いと思ったが、あれはアレンジというわけか」
椿の神風刃を見て思うところがあったようだが、納得した様子。
「行くよ」
宣言した次の瞬間、風香は幽月の傍に接近していた。
そのまま、二刀で連撃を開始する。
「……なるほど、思ったよりかは速いな」
「椿ちゃんと比較してるのかな?それとは大違いだよ」
「神祖の神器の影響か。ただ、魂がそれを支え切れていないぞ」
「聞いたことのないフレーズがポコポコ出てくるね!」
「だろうな。いや、似たような言葉なら聞いたことがあると思うが、『使い方』が初めてだろうな」
風香の連撃を木の剣で次々と防いでいく。
とてつもないほどの物量だが、幽月は特に難しいようには感じていないらしい。
「……全然通らない……なら」
出現するのは、十六の門。
すべて砕け散って、風が集まる。
「娘と合わせて馬鹿の一つ覚え……といえば楽な話だが、完成度は全然違うな」
「っ!……『儀典双風刃・絶技・八王双臨』!」
横に薙ぎ払われる二刀の八王天命。
「時雨なら『回避』を選んだだろうが、私にはそもそも通用しない」
斬撃が幽月にあたる寸前、何か、強固な物体に衝突したかのように砕け散った。
「な……何かしらの障壁?なら……」
二刀から、それぞれ八本ずつ、風で出来た帯のようなものが出現する。
「ふう……『儀典双風刃・超絶技・双八大蛇八裂晩餐』」
壁があって通らないなら、壁こと食い散らかせばいい。
それを表すかのように発動された超絶技。
風香はそれを振り下ろす。
それと同時に、風の帯が伸びて、幽月に襲い掛かる。
「む……」
何か思うところがある様子の幽月。
ただ、これが技の特性の話であったとしても間違いはない。
幽月だって強いだろうが、それは本気の全力の話であって、普段からその高いステータスを発揮するわけではない。
「……『闘魂戦術・帳』」
剣が振り下ろされる。
次の瞬間、あたり一面が……地下であるというのに、『夜』に変わった。
そしてそれと同時に、八裂晩餐が消滅する。
「……嘘」
「な、何が起こってるんですか!?」
「空間の魂に間取りができてるな。それによって、太陽光との関係が変わって、当たらなくなってる。それで『夜』になったんだろう」
「意味が分かりませんよ!?」
「ああ……まあ要するに、幽月の戦い方は、理屈の通らないものばかりってことだ」
「ついでに言えば、夜になったことで技が眠りについた。といった感じかしら?」
「えげつないねぇ……」
説明が飛び交うが、魔法というより『異能』というか、概念そのものを敵にしているかのような感覚がする。
「……これは一体……」
「闘魂戦術。内側にある『魂』のエネルギーそのものを使って、他の魂を塗りつぶす戦闘術だ。全知神レルクスが感知する範囲において、私が最初に開発したものだよ」
「……こんな戦い方があるんだね」
人は時々、『根本的に』という表現を使う。
もちろん、根本というのは人の視野という限界があるわけだが、どこか、それを感じてしまったらしい。
「……無理だね。秀星君。代わろ?」
「そうだな」
ため息交じりに頷いた秀星は、自分も木の剣を持って、指定位置に立つことにした。




