第千二百八十四話
椿が時雨にポカポカ叩かれている頃。
ユイカミとマクロードは、釣りをしていた。
坂神島は完全特殊コンクリ製の巨大建造物だが、立地故に水路もそこそこある。
島の周囲に大型の養殖漁業が行われているのだが、たまに逃げて島に入り込むやつがいるのだ。
なお、魔石の質を高めることに特化した種が選択されております、そいつらを釣り上げて、捌いて、魔石を手に入れて換金すれば、それ相応の金になる。
魚は食えるし、小遣い稼ぎもできるということで、うまく利用していた。
全身筋肉痛だけど。
「ユイカミ。釣れてるかい?」
「一週間分の保存食を作り終えたところだ」
「器用だなぁ」
「これでも異世界ぐらしが長かったからな」
魚はいずれ腐るが、手順を踏めば保存が利く。
ふたりとも魔法を使えるし、入れ物さえ手に入れることができれば十分だ。
「……思うんだけどさ」
「ん?」
「君の本体は今頃、美味しいものをいっぱい食べてると思うんだよね」
「だろうな。幽月が本体を優遇しないとは思えん」
「じゃあなんで、君はサバイバル一歩手前なんだい?」
「知らん。というか、異世界から帰ってきて、お前を発見したときから、裏で色々やってたからな。もう慣れました」
「君って慣れるの早いよね」
「自覚してる」
本体の方に神器をおいてきたので、ユイカミは持っていない。
万能細胞アルテマセンスを持っていないわけだが、だからといってできることは少なくないのだ。
「はぁ……この気配。模擬戦でもやってるのかな?布明は適当にはぐらかすだろうし、幽月が戦う相手を選ぶとすれば、多分君の本体だろう」
「可能性は高いな」
「いろいろバレる……いや、確信を持たれるんじゃない?」
「だろうなぁ。器うんぬんはともかく……『アイツ』のことはバレたくないねぇ」
七メートルくらいのマグロを釣り上げるユイカミ。
そのまま横においていた包丁で捌いた。
「いや、多分わかると思うよ?君の魂の仕込まれ方。君の両親らしくないからね」
「言うなよ。そのあたりどうしよっかなって考えてるんだから」
裏で行動しているゆえに、バレたくないことも多いユイカミ。
ただ、それらはこの段階になって、望み薄となったようだ。




