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第千二百八十二話

「ただいまー」

「お帰りですううっ!」


 秀星と風香と幽月の三人が部屋に入ってきた。


 椿は元気に返事をする。


「おー。椿、おとなしくしてたか?」

「むふー!」

「おとなしくはしてなさそう」

「だな」


 秀星が分かり切っていることを聞くと、椿は胸を張って返答。

 ……風香と幽月としても、それだけですべてわかるというものだ。


「おー、帰ってきたか」

「お邪魔してるぜ」


 高志と来夏は酒を飲みながら待っていたようだ。

 高級ホテルらしく高級な酒が並んでおり、それらを少しずつ飲んで味わっていたようだ。


 ホテルのスタッフは、『こいつらに味わうという感覚が備わっていたんだな』と、普通なら失礼の権化のようなことを考えていたが、こいつらなら問題はない。本人たちも気にしない。


「むー。ちょっと手札が良くないですね」


 酒をたしなむ大人……こいつらを大人と言っていいのかどうかわからないが、まあ大人組として、椿、栞、刹那、布明、時雨の五人はトランプで遊んでいたらしい。


 時雨をディーラーとしてポーカーをやっている。


 秀星は椿の手札を後ろから見てみた。


 ♠1 ♥2 ♥9 ♦3 ♣5


 これで『ちょっと』手札が悪いという椿の心臓はどうなっているのだろう。

 救いようのない役なし(ブタ)であり、オールチェンジだって普通に考えられる手だ。

 いや、まだ♥9を変えて4のカードが来たらストレートになるが、基本的に初心者ばっかりのポーカーなど、ワンペアがツーペア、よくてスリーカードで争うようなもの。

 ストレートなど夢の話である。


「むう、私は四枚変更です!」


 ♠1以外の四枚を変える椿。


 これでストレートの夢はなくなった。


 時雨が見事な手さばきでカードを四枚配る。


「むー……」


 確認する椿。

 結果こうなった。


 ♠1 ♥1 ♦1 ♣1 JOKER


「ファイブカードですうううっ!」

「なんでだあああああっ!」


 布明が頭を抱えて撃沈。

 ちなみに、このホテルの上層フロアは防音性能が高いので大声程度は大丈夫です。


 ……布明の手札を確認すると、♦のフラッシュだった。

 悪くはない手だが、椿の手が強すぎます。


「……はぁ、仕方ないわね」


 栞は9から13の♠が揃っていた。


「~♪」


 刹那は誰にも見せずにカードを戻した。


「はぁ、時雨さん。椿ちゃんに贔屓してないよね」

「私がするわけないでしょ」

「だよね」

「まあ誰かを贔屓するとしても、あなたにすることは多分ないけれどね」

「何故に!?」

「意味がないからよ」

「それには納得はするけどねぇ……はぁ」


 布明は味方が少なそうだ。


 そして、秀星の方をチラッと見る。


「で、君が朝森秀星か」

「ああ」

「なるほど、まあ、優遇するだけの価値はある人間だなって言うのは、見た感じ分かるよ」

「……アンタも中々強そうだけどな」

「まあねー。ごめんね。なんかポーカーでボコボコにされてるところを目撃させちゃって」


 フラッシュでボコボコは本人にとっても勘弁だろう。

 秀星だってそんなポーカーはやりたくない。


「むっはー!なんか体を思いっきり動かしたいですね!」


 カード遊びは楽しいが、やっぱり体をわちゃわちゃ動かしたい椿。


 秀星も戻ってきたし、まあ、あれだ。『うにゃああああ!』となってきたようだ。


「……あと、結構前から気になってたんだけど、幽月さんたちって強いの?」


 風香がそんなことを呟いた。


「幽月さんたちはめっちゃ強いですよ!むふううう!」


 椿が興奮している。発作ではない様だが。


「……まあ、模擬戦くらいならやるか」

「このホテルの地下には広い空間があるから、そこで体を動かそうか。私も最近、ちゃんと運動していないし」


 幽月が提案する。


「むふふー!思いっきり動きますよ!というわけで、おじいちゃん!来夏さん!酔いを醒ましてください!」


 いつの間にか用意していた水入りバケツをぶっかける椿。


「うおおおっ!」

「うげええっ!」


 急に出てきた大量の水に驚く二人。

 水は家具や床にあたると同時に消えていきました。原理は知らん。


「……物理法則には仕事をしてほしいな」


 幽月の呟きに対して同意しながら頭を抱えるツッコミ組。


 まあ仕方がない。こいつらが混じるとそんなものだ。諦めてくれ……と言っても無理だろうから、受け入れてくれ。

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