第千二百七十七話
「さて、この坂神島を何故決戦の地としたのか。君の口から聞いておこうか」
幽月はそういった。
ちなみに椿だが……幽月からししおどしを受け取って、それをボーっと眺め続けている。
面白いとか面白くないとかそういう以前のレベルの物体だと思う。
ちなみに、水は一切流れておらず、何も動かないししおどしを見続けているのだ。本当にマジで何が面白いのだろう。
……まあええわ(適当)。
幽月の質問の内容は単純なもの。
おそらく幽月本人も予想はできているだろうが、秀星の口から聞くのが最善だろう。
「簡単に言うと、『魂の強度』とか、そのあたりの観測と計算を繰り返した結果、この島……といおうか、『この地点』になったって話だな」
「なるほど」
何故魂の強度とやらがかかわってくるのかに関する説明はない。
ただ、遊月としては分かる程度の話だったようだ。
「……ねえ秀星君。魂の強度っていうけど、どういうこと?」
まあもちろん風香にはわからないわけだ。日本五位の実力者であり、秀星の傍でも戦えるようにと鍛えている彼女だが、『成長プロセス』が秀星とは全く異なるため、知らないことは多々ある。
「おそらく二人の戦いは、物理的な理屈がほとんど意味をなさない。お互いに、基礎スペックも即時回復能力も、尋常ではないからな」
幽月はつぶやく。
(……まあ、全身筋肉痛はほぼ確定しているから、回復能力に関しては除外すべきかもしれないが……本戦には備えてくるだろ。多分)
内心でそんなことを思ったが、まあ、それはそれ。
「魂は、その存在の根幹となる部分。かなり頑丈にできていて、こっちは物理法則ともほぼ関係がない強度を発揮できる。ただ……さっきから秀星が使っている『計算』というのが何を現すのかと言うと、実力の質と差の影響で、お互いの攻撃の衝突が、『とある規定』を満たす。それに当てはまる現象は、魂に影響を与えることになる」
「魂に影響を与えると……どうなるの?」
「影響下にある魂の強度が落ちて、霊魂的な次元の『負の側面』の影響を受けやすくなる。呪いが弱点とかそんな感じだ。あとは……死後の事情がかかわってくる。あえて表現するなら『霊魂的な意味での奇形児』が生まれやすくなるということになるか」
「そ、そんなに……」
通常の人間の『次元』ではない。
そして、そこまでスケールが大きいということは……。
「あまりこれで張り切っちゃうと、全知神レルクスが止めに来るってわけだ。二人そろって説教を食らう可能性もある」
「そんな存在が止めに来るんだ……」
「そういうわけで、『魂の強度』が強い地域を探してたんだよ。そこで見つけたのがここってわけだ」
「……まあ、概ね、そんなところだろうと思っていたが」
幽月は溜息をついた。
……風香にはどこか、その溜息がとても苦労人が放つそれに似ていて、なんだか悲しいものを見ている気分になったが……黙っておいた方がいい。沽券にかかわる。
「というわけで、迷惑かけるけど……すまんな」
「……」
黙ってうなずく幽月。
あまり調子に乗りすぎると全知神レルクスに怒られるため、神々であってもやることのリミッターは考えている。
迷惑をかけるだろうが、正直に言えば、長いこと生きていればこの程度のことはよくあることだ。
その上で、エゴのぶつかり合いという幽月の予想からの判断だが、別にそれそのものは反対するようなものではなく、むしろ尊いこと。
だからこそ、否定も反対もないのだが……。
(……図々しさが『器』の方に寄っているな。秀星)
なんとなく、そう思う幽月であった。




