第千二百六十三話
坂神島は、侵入する段階では高いレベルのセキュリティが構築されており、ギャグ補正極振りの手段である『頑張って泳ぐ』くらいしか入る手段がない。
もちろん、周囲に島はなく、日本の本州から頑張って海中をぐんぐん進んでくるしかないわけだ。
町もかなり整備されており、セキュリティのレベルは高く、中央に近づくにつれて摩天楼が並ぶ。
……ただ、全てがしっかりとしていると、かなり『窮屈』だということも事実。
そのため、一部、セキュリティをわざと甘くしている部分がある。
とはいっても、防犯カメラという名を持った監視カメラが少ないというだけで、人間が巡回している。
ただし、緊張感というものをやわらげるという目的で設定されている区域のため、警備員はそれ以外の場所よりもややカジュアルよりの服装をしており、また、多少のことは目をつむってくれる。
そのあたりの塩梅は難しいものがあるのだが、警備員はいずれもベテランが採用されるので、表で業務をしている警備員よりも勘は鋭いしいろいろ察してくれる。
「はぁ、ベッドに倒れたら泥のように眠ってしまいそうだ……」
要するに、マクロードはそんな区域にやってきて、泊まる場所を決めたということだ。
部屋番号が書かれた鍵を受け取って、そのまま部屋に歩いていく。
「……?……っ!?」
廊下を歩いているとき、誰かとすれ違いそうになったので、軽い会釈をして通り過ぎようと思ったのだが、その人物を見て驚愕するマクロード。
「ゆ……ユイカミか……」
朝森秀星の『器』
ある意味、これからのマクロードの行動において重要なポジションともいえる人物が、廊下を歩いていたのだ。
「マクロードか……初めましてだな。二年半前。異世界から帰ってきて、お前の存在を認識した時は驚いたよ」
ユイカミは、黒いメッシュが入った白髪を弄りながらそういった。
「……なるほど、地球に来たときに、どこか歪な『改変』があると思ったら、君が弄ったわけか」
「理解が速くて助かる……が、こんなところで言い合っている余裕は、お互いにないはずだ」
「?」
ユイカミの言い分に引っかかる部分はあったが、とりあえずユイカミを観察する。
どこか……マクロードと同じ疲れ方をしている気がする。
「……」
マクロードは察した。
『コイツも、不法侵入してきたんだろうなぁ』と。
そして、お互いに、とユイカミが言った以上、彼もマクロードのそれには気が付いているのだろう。
「……世も末だな。という感想が頭に思い浮かんだのだが、君はそれを否定するかい?」
「それはできんな」
ラスボスと主人公の器が、そろいもそろって頑張って泳いで不法侵入とは。
さすがに世も末である。




