第千二百五十九話
「この島に来るのが遅れたわね」
「~♪」
椿がラーメンを食べまくりながら満足しているとき、栞と刹那は椿たちとは別の便で坂神島に到着していた。
「……しかし、本当におかしいわね」
「~♪」
栞はポケットからカードケースを取り出すと、中から一枚のカードを取り出す。
それは、栞本人の名が記された『坂神島のライセンス』である。
権限ランクも最高であり、栞がこの島の上層部から認められている証でもある。
ただ、ライセンスの発行日は記されていないが、確実に未来で作られたものであることに間違いはない。
「……未来で、これを過去でも使えるって聞いたけど、正直、何をどうすればそれを認めるという感性になるのか意味不明よ」
「~♪」
そう、このライセンスだが、過去に飛んできた今でも使える。
というか、ライセンスカードがあると、この島への船に大きな制限もなく乗れるのだが、これを使ってここに来たのだ。
まあ、それ以上に不思議なことが栞にはある。
(……この島に入るための調査員との面接は一対一でするけど、刹那って会話が成立したのかしら?)
ちらっと刹那を見る栞。
「~♪」
こう……声っぽいものはあるのだが、どういえばいいのだろうか。『フフッ』と『んー』の中間というか、なんだかとても小さい動物の鳴き声のような音がする。
メールでのやり取りというわけでもないし。いったいどうやってコミュニケーションを取ったのだろうか。
十六年一緒にいる栞もよくわからない。
ただ、その……よくわからないことは事実なのだが、それでも、コミュニケーションが何となく取れていることは事実なのだ。さすがに十六年ずっと『~♪』は、栞でもとてもじゃないけど……というよりとても無理である。
「まあ、いいわ……早く椿と合流しましょう。時雨さんに食われかねないわ」
「~♪」
少しソワソワしている様子の栞。
そうなっている『理由の原因』は一つだ。
現在、ドッペルゲンガーである三人は、未来にいるオリジナルに感覚が届いている。
しかし、触覚に関してはやや甘いところがあり、『過去からくる刺激が足りない』ゆえに、発作が起きやすいから刹那と栞がこの時間にやってきたわけだ。
どういう原理なのかまだわかっていないが、ドッペル同士で触れておけば、未来の椿にもしっかり伝わる。
だが……時雨だけは完全に例外で、ドッペルゲンガーではなく生身の人間でありながら、未来の椿に100%の感覚を届けることができるのだ。
未来の方でいろいろと『ヤケクソ』なことになりかねないので、接触する必要がある。ということである。
……あの女、めんどいな。




