第千二百五十四話
「むふふ~。おいしいものがたくさんありますね!やっぱりお肉がめちゃくちゃ高いですけど!」
メンチカツを頬張りながら椿はそういった。
「そうねぇ。まあ、私たちは魚ばっかりって言うのに慣れてるからいいけれど、あまり外部から来た人は良い顔をしないのも事実なのよね」
「むう、でも、海に浮かぶ鉄の町で食料生産を考えたら、漁業中心になりますよね」
「それは事実ね」
秀星に説明されて、この坂神島が、『魔石を優先させた魚モンスター』を育てることで食料とエネルギーを自給していることを理解している椿。
背景を理解しているゆえに、魚が安く提供されているという部分に納得しているが、それでも、お肉だって食べたいお年頃である。
……ならセフィアに頼めばいいのでは?という話にもつながるのだが、椿は『それをここで言うのは野暮というものですよ!』とでも考えているのか、あまり主張している様子はない。
「むー。あと、お父さんとお母さんは別行動になっちゃいましたね」
「そうね」
良い笑みを浮かべながら頷く時雨。
現在、秀星と風香は、椿と時雨とは別行動をとっている。
……秀星が、時雨の思惑通りの場所に案内されることを嫌がったということもあるだろう。風香も、どこか時雨を苦手としているのか。
いずれにせよ、二人は、時雨に対して何かしらの偏見を抱いていることを自覚しながらも、『存在を認識したうえで、ちょっと距離を取って考えてみるか』という結論になったわけだ。
椿は誰と出会おうが誰と話そうが別に変わらないし、時雨と話すことそのものはとても楽しそうなので、別に接触させることに抵抗はない。
というわけで、別行動になったというわけである。
「フフッ、思ったより奥手な二人ねぇ」
「む?なんですか?」
「なんでもないわ。次の店に行きましょう」
優しい表情で椿を案内する時雨。
まあ、秀星と風香がいろいろなことを考えている……いや、厳密には『何か時雨と合わないフィルタを持っている』ようだが、そんなことはお見通しといったところか。
ただ確定なのは、時雨が現状、秀星と風香に対して、そこまで興味がないということである。
「むっふー!次も楽しい所ですかね?」
……まあぶっちゃけ、椿といると楽しいし。別にそういう点では秀星と風香を選ぶ意味などさらさらないということもあるのだが。これ以上言っても、それらは全てわかり切ったことである。




