第千二百五十三話
「むふふ~♪」
気持ちよさそうな表情で時雨に抱き着いている椿。
島の地下にある特殊なレストランで、ソファ側の座席に座っているため、遠慮なく抱き着いているといったところか。
そんな椿を撫でつつ、時雨は優しそうな笑みで反対側の椅子に座る秀星を見る。
「さて、何から話したものかしら。私が集めている情報では、この島のトップに会いたいらしいけど」
「……まあ簡単に言うと、この島に、盛大に迷惑をかけそうだからっていうことではあるんだが……」
「ああ、だから上層部がざわついていたのね。フフッ。この島で大暴れするつもりかしら?」
「できそうなところがあるだろ」
「確かに。島にはコロシアムも用意されているから、戦えないわけではないわ。ただ、まだそのお相手さんは、この島に来てすらいない。というより、この島の外で準備を進めているはずよ?」
「どこまで知ってるんだ……」
正直、秀星の方から話す必要がないのではないかと思えるほど、時雨の口から言葉が漏れてくる。
いや、実際、この島の情報収集能力は高いのだろう。
まだ理由は分からないが、ワールドレコード・スタッフにすら表示されないほどの隠蔽能力に加えて、この高い情報収集力は、秀星から見ても圧倒的だ。
「とりあえず、この島のトップに会いたいって言うのは変わらない。どうにかならないか?」
「そうねぇ……」
アトムから念押しされているのは、あくまでもトップの人物と会うことだ。
周防時雨というこの女性も、ナンバーツーとのことだが、アトムからは何も言われていない。
アトムにもいろいろ計画はあるだろうが、それを通すために、トップに会う必要があるのだろう。
というか……計画性云々というより、時雨は場をひっかきまわすのが好きそうな印象があって、なんだか色々任せることに不安が……。
「何か失礼なことを考えているようにも思えるけど、そうねぇ……私の方から、あなたに会うように言っておくわ。ただ、こちらも『調整』で忙しいから、すぐには会えないわよ?」
「そこは分かってる」
アトムからの資料でも多忙な人間であるということは明記されているので。そこは問題ない。
そういう事情だといつ会えるかわからないから、速攻でこの島に来たという話もある。
「この島は広いから、ゆっくりしていきなさい。もしよければ私が案内するけど?」
「む!お願いします!」
「あらあら、フフッ、なら一緒に回りましょうね」
「えへへ~!よかったです!」
「「……」」
手綱の握り方を知っているものが、一番強い。
なんとなく、そんなフレーズが頭に思い浮かんだ秀星と風香である。




