第千二百五十一話
「ここを通りたいですうううっ!」
「ええ。構いませんよ」
「……関係者以外立ち入り禁止って書いてるけど」
「椿ちゃんって関係者じゃないよね。初上陸のパスカードを貰ってたし」
どうやら中央に近づくにつれて、『権限』が必要になるのが坂神島のやり方らしい。
秀星、風香、椿の三人は、島に来た人間がとりあえず入ることになる役所でカードを発行してもらった。
そのカードには『権限ランク1』と表記されており、説明を聞いた範囲でも『最低ランク』という説明を受けた。
……受けたのだが、関所などに近づいて、受付のお姉さんに椿が要求すると、カードを見せることなく素通りできた。
しかも、秀星と風香も一緒に通ることができた。
完全に意味不明なことになっているのだが、椿には特別な権限があるのか、それとも坂神島の人間は皆ロリコンなのか、まだわからない。
「むっふふ~!かなり高層の建物が増えてきましたね!」
「そうだな」
「見上げないと一番上が見えない建物ばっかりだね」
当然のこととして、ランク1のエリアが一番広く、ランク2はそれよりも狭く……といった形で町が作られている。
島はほぼ円形に作られており、中央に行くほどランクが高くなる。
そのため、最初は二階建てが多かったが、中央に近づくにつれて高層になってきた。
「むー。このあたりだと、管理職のオフィスと娯楽関係ばっかりが集まってますね」
「みたいだな」
「椿ちゃんは未来でもこのあたりに来てたの?」
「風俗店に胸を揉みに行ってました!」
「「……」」
誰に対してかはわからないが、『うちの子がすみません』という感想を抱いた秀星と風香。
というか、そういう店って未成年は入れなかったりすると思うのだが、椿は入れるのだろうか……いや、むしろ連れ去られる可能性もあるか。
女の子たちが百合百合ハグハグしたいという欲望を抑えきれずに暴走した光景が目に浮かぶし。
「……まあ、うん。いいや……で、そろそろ、アトムが言っていた地点なんだけどなぁ」
この坂神島の統治者に会うという目的で来たが、だからと言って中央にまで乗り込むわけではない。
当然、それ以前のエリアにその統治者がいるという情報があり、アポイントをなかなか取れない相手らしいので、見つけて接触しろとのことだ。
……相手のことをまだよくわかってないのに、どうしろと言うのだろうか。
「本当にどこにいるかわからないんだよなぁ。どうしようか」
「秀星君。『世界地図』の神器持ってるよね。それを使えばいいんじゃないの?」
「いやー……なんか、この島に対しては一切反応してくれないんだよなぁ」
「えっ……神器が効かないってこと?」
「そういうことだ」
ワールドレコード・スタッフ。
秀星が使用する十個の神器のうちの一つであり、世界地図である。
だが、アトムに資料を渡されるまで、坂神島という島があることすらわからなかったくらいだ。
外部の世界地図など利用しない秀星は、世界地図という概念を使う場合はこの神器を使う。
それで見れなかったのだが、こうして近づいても、うんともすんとも言わないのである。
「この島が、この神器の感知能力の『外』にあるんだろうな」
「そ、そんなことが……」
「俺だってそういう処置ができないわけじゃないが、相当なレベルだ。あんまり油断したくない相手なんだが……」
明確に、『神器が効かない』というのは秀星にとっても初めての相手だ。
「……あ、椿ちゃんに、いつもより好き勝手させてるように見えるけど、それって椿ちゃんの空気でめちゃくちゃにするため?」
「俺だって正攻法があるならそれをするが、あまりとれなさそうだからな。というわけで禁じ手を使うというわけだ」
その禁じ手が椿ということである。
「むー。そんな怖い人じゃないですよ!」
「……椿、その統治者に会ったことがあるのか?」
「それはおろかって感じですね!」
どういう意味なのだろうか。
「むー。確かいつも、このあたりの居酒屋の地下で高級魚を食べてるんですけどね。どこでしたっけ?」
唸りながら探し始める椿。
(そろそろ……ってわけか。さて、何が出てくるのかね)
……きっと時間がかかるので、とりあえず、面倒な部分は椿に押し付けるつもりの秀星である。
それが吉と出るか、凶と出るか。
最初から『やけくそ』一択であることを確信しつつ、秀星は椿がきょろきょろと見まわしているのを見守ることにした。




