第千二百四十七話
「むー……マクラさんの匂いが遠くなってる気がしますね」
椿はそんなことを呟いた。
「……遠くなってる?」
「今まではずっと日本にいたような気がしますが、これからはそうでもないような、そんな気がします」
朝森宅のリビング。
椿はタブレットでセフィコットが撮った写真を見ていろいろ整理したり笑ったりしていたが、ふと、そんなことを口にした。
それを眺めていた秀星としても、無視できる話題ではない。
「なんでそう思ったんだ?」
「感覚ですね」
匂いだ何だと言っているが、結局は直観である。
ただ、椿の直感というものをバカにできるかどうかといわれると、そういうわけではないのが周囲の人間にとってつらい所。
見えているモノを理解するとき、謎のフィルターを通して解釈する椿の直感は一般人のそれとは大きく違う。
そのため、直観と言いつつも、それは単に、他の人と解釈が違うだけで、何か大きなものを発見した可能性だって十分あるのだ。
だからこそ、椿という少女を無視することは誰にもできず、そして逃れることもできない。
「マクロードが何かを決めた可能性は十分にあるか」
そして、秀星だって椿のそれを無視することはない。
本当に適当に言っていることもある椿だが、何となくそうではない……ような気がしなくもない気がする……みたいなあやふやな部分は当然ある。
が、まあこればかりは、父親として何かが分かるといった分類の話である。
椿という情報源を参照する以上、理屈はあまり関係ない。
「……はぁ、結構移動する必要がありそうだな」
何かを面倒と思っている様子の秀星。
ただ、逃れられないからこそ『面倒』と思えるのだ。
こればかりは、こなしていくしかない。
(ていうか、マクロードの因子は沙耶にしか見えないし、本体は椿しか感じられないし……どんな体質してるんだ?)
それは突っ込まないお約束だ。




