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第千二百四十六話

「……もしかしたらとは思っていたけど、ここ(・・)しかないか」


 マクロードは地図のある一点をバツで印をつける。

 その周囲には、一般的な数学では全く使われないであろう記号で出来た数式がいくつも書かれた紙が雑に置かれている。


「はぁ、面倒だなぁ。ギャグ補正。正直、全知神レルクスの気分だからなぁ」


 椅子に深く座りながら、マクロードはつぶやく。


「世界にどれほどの緊張感が発生するのかっているのは、それを調整できるものの匙加減ですべて決まる。全てを知る全知神レルクスの気分もあるだろうし……緊張感がない戦いに持ち込まれると、ギャグ補正に対して適正を持っていない私ではどうにもならないね」


 マクロードは苦笑するようにそんなことを言って、近くに置いてあったカフェオレを口に含む。


「……ふぅ。しかし……」


 戦った四人を思い出す。


 自分にダブル弁慶というどうしようもないネタを披露した沙耶についてはいつかひどい目に遭えばいいという個人的な心情は大きく出てくるが……。


「正直。何でもアリの戦いなら、一番ヤバいのは椿ちゃんだね」


 椿が使っていた技はともかく、その『刀』を思い出す。


「あんなモノを使って戦ってる奴なんて初めて見た。まさか、『斬って殺した相手を、天国に送る刀』とはねぇ」


 椿の刀。

 銘は『弔丸(とむらいまる)椿色(つばきいろ)


 斬った相手を殺した場合、天国に送ることができる刀だ。


「秀星の娘だけあって、死生観が普通の人間と異なるのは分かるが、その使用条件も恐ろしい。『感謝を忘れずに振るう』……か。一体何をすれば、そんなことができるのやら」


 戦いには高揚感がつきものだが、それは椿も同様だろう。

 だが、彼女の場合、戦う相手に対して、感謝を抱き続ける。


 モンスターを倒せば魔石が手に入り、魔石は様々な魔法具に使用可能である。

 モンスターを倒して魔石を手に入れるという行為一つ一つに、椿は感謝をし続けているのだ。


 動物を殺してその肉を食べたり、自然の実りから作物を得たりといった行為に対しても、自分の糧になるという点ですべて感謝している。


 何気なく言う『いただきます』と『ごちそうさま』だが、椿はしっかりその意味を理解しているのだ。


「……感謝を忘れない……か。時に、人はそれを笑うものだが、それを為しえている椿がみんなから愛されているところを見ると、どうともいえないねぇ……」


 背もたれに背を預けて、天井を見る。


「さすが、全知神レルクスのお気に入りだ。はぁ……一体いつからロリコンになったんだか」


 フフッと微笑んで、地図のバツ印を入れた場所を見る。

 話を変えようと思ったのだろう。これ以上は怒られそうだ。


「決戦の地は決まった。私の実力も、もう少しで、『十分』といったところだろうか。ただ、『エゴ』のためにはまだ足りない……」


 マクロードは溜息をつく。


「迷惑をかけることになるだろうけど、仕方がないってことにしようか。フフッ」


 不敵な笑みを浮かべて、マクロードは静かに目を閉じた。

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