第千二百四十三話
「……あれ?椿は?」
とある日。
リビングで一人でジェンガをしていた椿を置いて部屋に資料を取りに行った秀星だが、リビングに戻ってくると、椿はいなくなっていた。
「ギャグ補正の強い二人に連れていかれました」
「さいですか」
セフィアに言われて頷く秀星。
「父さんと来夏は何しに来たんだ?」
「椿様とゲームセンターに向かったようですね」
「……そうか」
それを椿が拒むとは思えないし、別に今日は椿と何かをする予定もない。
となれば、椿は笑顔で付いていくだろう。
「正常に動くのかな。ゲーセンの筐体」
「さあ……それは私にもわかりませんね」
ギャグ補正が強い高志と来夏。
そして椿は、高志の孫である。
この三人が揃ってまともに動くゲームってあるのだろうか。
ちなみに、今は『剣の精鋭』も『ユニハーズ』も、魔法省直轄の魔戦士チームという扱いなので、筐体を粉砕して弁償を求められても払えるだけの稼ぎになっている。
まあ、三人はあまりものを壊したりはしないのだが、油断はできない。秀星と高志の再会当時、ビルでお手玉してたような連中だからな。
……さすがに、ゲーセンでそこまで暴れるにしても限度があると思うが。
「そういえば、秀星様は何を?」
「俺は来年につかう参考書を書いてたんだよ。ただ、アルテマセンスで使える脳のタスクのほとんどをマクロード対策に使っててな。資料をどこに置いたとか、そういうのって時々記憶が飛ぶんだよ」
「なるほど」
秀星は神器の影響で頭脳もとんでもない領域になっており、並列思考だって普通にできるのだが、それによってできるタスクのほとんどはマクロード対策で埋め尽くされている。
もちろん、最も『真理』に近い秀星にとって、参考書を書く程度のことであればそこまで高いレベルを要求されることではない。
「タスクが多くて余談が多いですからね」
「……」
ぐうの音も出ない秀星。
……編集担当から『内容は凄いんですけど、脱線話がめっちゃ多いんで気を付けてください』と言われているのは、ある意味秀星らしいともいえるか。
「はぁ、まあ。いいや。とりあえず椿は父さんと来夏と一緒にいるんだな?」
「はい」
「さて……で、セフィア」
「なんでしょう」
「清磨がなんかやったみたいだが……マクロードの『準備』が整うとしたら、いつだと思う?」
「秀星様がそういう時は、いつも『そろそろ』ですよ」
「確かにな。あー、面倒だなぁ」
秀星は面倒という色を隠さず、書斎に向かって歩いていった。




