第千二百四十二話
「栞~」
椿が涙目になって栞に抱き着いている。
「どうしたの?」
「クレーンゲームで五千円が溶けたですううう~~」
アホである。
「一体何を取ろうとしていたの?」
「チョコレートがいっぱい入った箱ですぅ」
要するに、何かのチョコレートのお菓子のパッケージが景品になっているそれを発見して、何かの気まぐれによってそれを食べたいと思った椿が、クレーンゲームに挑戦したということなのだろう。
「……明らかに買った方が安くなったわね」
フィギュアとかならまだワンチャンあるが、さすがにお菓子ひと箱に対して五千円は純粋に無駄である。
「クレーンゲームって難しいです!」
「……」
栞は、お菓子が山積みになっているような景品形式であれば、五百円……要するに五回で筐体の中身を全て取ることが可能である。
クレーンゲームにランダム要素はない。
商品は見えているし、別にボタンと違う方向にクレーンが動くこともない。
それゆえに、栞は大体のクレーンゲームでも無双する。
要するに、未来では出禁である。
そんな栞に対してクレーンゲームが難しいと言っても『そ、そうか』としか言いようがないのが現実だが、椿は何ができて何ができないのかも結構あやふやなので、答えようがない。
たまに、栞をこえる奇跡が起こったりもするので、成功という概念そのものが気まぐれなのだ。
もうちょっと物理現象さんには常識を保ってもらいたい。
「それで、そのお菓子は買ってもらえたの?」
「セフィコットさんが買ってくれました」
笑顔の椿。
おそらく、そのお菓子を買ってもらったことで嬉しくなったが、家に帰ってきて五千円が溶けたことを思い出して栞に泣きついてきたといったところか。
……文脈のない子である。
「お菓子は美味しかったです!」
「それはよかったわね」
椿がマズいっていうお菓子ってなんだろうか。と思う栞。
ゴーヤドラゴン味という魑魅魍魎みたいな味ですら平気で食べるのだ。
理解は苦しい。




