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第千二百三十八話

 気が散る。


 絶望的に気が散る。


 本当に、どうしようもないほど気が散る。


 なんなら、まともな会議をすることをアトムが諦めている気がしなくもない。


 会議室で各々が用意した資料を全員のパソコンと共有させる形で情報共有が行われているが、気が散って仕方がない。


「むううう~~~……全然わからないですううう~~~……」


 ぐて~。と机に伏している椿。


 彼女は会議でとても頑張ったと言える。

 様々な数値を見て、時々アトムから『どう思う?』と無茶ぶりされながらもいろいろ答えて、そして抽象的……いや、抽象画でも見せられているかのようなよくわからん感想を述べつつも、時々お菓子をボリボリ食べるという、余裕があるのかないのかよくわからない状態になっている。


 まあ一応、人の話を聞いていないわけではないのだが、だからと言って理解できるほど、魔法省の会議は単純ではない。


 というかぶっちゃけると、真の意味で会議の全貌を理解しているのはアトムと栞くらいのもので、他の面々は、『アトムに報告するついでに、他の人の頭に入れておこう』みたいなノリである。


 どうしてこんなわけのわからないことをやっているのかと言うと、これくらいわけのわからないことしか椿を参加させる意味がないからである。


 ただ、椿はアホではあるが馬鹿ではないし、家庭教師がセフィアなので全く分からないということはない。

 しかし、今回の会議は方向性を見失った居酒屋に入ったようなもので、椿としても混乱せざるを得ないのだ。


 ……混乱してあたふたしている椿を見るのは和むので、これくらいでちょうどいいとアトムが考えていることも事実ではあるが。

 こればかりは、若者を苛めて楽しむということを覚えてしまったアトムをどうにかしないといけない。今のところ修復は無理だろう。


「今やっている話は何となく分かると思うわ。とはいっても、基礎的なことなんて何も話してないから、むやみに突っ込んでも意味はないけれど」

「そんな話ばっかりですううう~~~……」


 机に伏して時々お菓子を食べている椿の横では、栞が会議にきっちり参加していた。

 あらかじめすべての資料をパラパラっとめくって全て覚えているので(この時点でかなり謎)、会議でも発言できるくらいには理解できている。

 ……いや、厳密には、発言する意味がある領域まで理解することができている。ともいえるか。


 未来における技術的な部分も知った上で話せる栞は、『今の会議の先』を知っているのと同じだ。

 あまりそこまで踏み込んだことを言うと全知神レルクスが止めに入るので言えないが、それでもいえることは多い様子。


「むぅ……」


 椿は栞の足を見る。


「……どうかしたの?」

「さっきからずっと思ってたんですけど、なんで栞のスカートはマイクロミニなんですか?」

「この時代の繊維のレベルが未来と比べて違いすぎてストレスになるから、出来る限り布面積を減らしてるだけよ」


 とか何とか言っているが、上半身はきっちりしているので、そのようなことはないだろう。

 純粋に、自分の体に自信があるだけだ。


 実際、良い体をしているからね……。


「むう、もうちょっとわかりやすい会議に参加したかったですううう~~~」


 栞に服装の話をしても意味がないと思ったのか、会議の話に戻した椿だが……結局、解決することはなさそうである。


 最初から予測できていたことではあるが。

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