第千二百二十八話
「なあ、椿が発作中に泣き出したんだが、なにか知ってるか?」
朝森宅。
星乃と栞が秀星直筆の参考書を読んでいたが、清磨の質問に振り向いた。
「刹那限定イベントよ」
「限定イベント!?」
どういう言い方だ!というのが清磨の本音だが、こればかりは仕方がない。
「姉さんは発作中って基本的に泣くことはないんだけど、刹那さんに抱きついたときだけは時々泣き出すんだよなぁ」
「なるほど、まあよくわかってないタイプのアレというわけか」
「そんなところよ」
結果、よくわかんない。
「ああ、だからセフィコットたちが悶絶してるのか」
限定イベントを見逃したからか、『ちくしょおおおっ!』とばかりに体をねじっているセフィコットたち。
「ただまぁ、姉さん自身もよくわかってないことだからな……」
「だよなぁ」
「あの子は記憶力はいいほうだけど察しは悪いし、発作中ならなおさらね」
「いや、たまに変な覚え方してるときもあるけどな」
「例えば?」
「小さい夜の曲って書いて『セレナーデ』っていうだろ?」
「ああ」
「姉さんは『ネカセーテ』って覚えてた」
「ハッハッハ!」
まあ、勝手に寝ていてくださいとしか言えないが、椿らしいといえば椿らしいか。
「ただ、刹那さん限定だけど、そもそもあんまりないんだよなぁ」
「椿なりに何かを感じ取ってる可能性があるってことか」
「そうとも言えるわ。警戒しておいて損はないわね」
通常と異なる思考回路を持つ以上、感覚も感じ方も違うだろう。
なにか、起こるのかもしれない。
……なにもない確率のほうが高いけど。




