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第千二百二十四話

「~♪」

「む?刹那。清磨さんに負けちゃったんですか?」

「~♪」

「ふむむ……途中までは順調だったんですね。むー……よくわかりませんね!」


 朝森宅。


 椿と刹那はリビングでお菓子を食べながらテレビを見て話している。


 ……リビングの隅の方では星乃が参考書らしいものを読んでいるが、椿は気にしない様だ。


「むー、むー」


 悩んでいるようだが、結果的に結論は出なさそうである。

 ……というか、結論を出すということに興味がなさそうである。


「むーっ!」


 何を思ったのか、椿は隣に座る刹那を抱きしめた。

 自分の胸に刹那の頭を埋めて、唸りながら刹那の体をギューッと抱きしめる。


 ……ちなみに星乃はどこ吹く風。といった感じで、気にしている様子はない。

 さすがにそれはそれでどうなのかを言わざるを得ないが、周囲にいたセフィコットたちがガバっと振り向いてビデオカメラを回しているので、放置してもいいだろう。


「うー!……む?」


 椿の視界に何かが映った。


「……ハエが部屋に入ってきたですううう~~~っ!」


 椿は刹那を解放すると、そのまま近くの棚からハエ叩きを持ってきて、ハエに向かって振り下ろす。


「む……外したです!」


 一生あたらない気が。


「むう!待てえええ!この!この!」


 バチンバチンとハエ叩きを振る椿だが、全然当たらない。

 動体視力が高い椿の攻撃を回避できるあたり、ハエもなかなかである。


 ちなみに星乃はそんな様子すら興味がない様子で、一度も椿の方を見ずに参考書を読んでいる。

 刹那はいつも通りニコニコしながら椿を眺めている。


 ……未来人の慣れ具合が凄いというか壊れているというか……。


「むうう!むうう!」


 ハエはまだまだ元気な様子で、椿の攻撃を回避。


 すると、ハエは、近くでビデオカメラ(に見えるモフモフ直方体)を回しているセフィコットの上をブンブン飛び始めた。


 ……セフィコットは何かを察した。


「てやっ!」


 バツッ!


「うにゃああああ!やっちゃったですううう!」


 椿が振ったハエ叩きがセフィコットに直撃。


 セフィコットは『いっでえええっ!』といった様子で頭を押さえている。


 ※セフィコットに痛覚はありません。


「むう!このっ!このっ!」


 またブンブンと振る椿。


「……♪」


 刹那はなんとなく、自分で対処しようと思ったようだ。


 ハエにばかり構っている椿を見ていて哀れに思ったのか、惨めに思ったのか、まあそれはともかく、椿ともっとハグハグしたいので、ハエは邪魔だ。

 ……いや、ハグハグ関係なしに、ハエを邪魔と思わない人間はほぼいないか。


 タイミングを見計らって……シュパッと刹那は移動する。


 バチイイイイイイインッ!


「~~~っ!」

「にゃああああ!刹那。ごめんなさいですううう!」


 椿が振ったハエ叩きの『軌道が変わって』、刹那のお尻にジャストヒット。


 刹那は涙目でお尻を押さえて悶絶。


「……」


 星乃は特に椿たちの方を向いたりはしないが、頭痛が痛くなってきたようだ。誤字でもなんでもなく、そう思った。


 近くの五円玉を持って、左手でビンッ!と弾くと、椿が狙っていたハエに直撃して絶命させる。


「お、おおおおお!星乃!いったいいつの間にそんな技術を!?」

「……はぁ」


 ついにため息が口から出てきた星乃。


 ……リビングには未来人しかいないわけだが、未来でもずっとこんな感じなのだろうか。

 それはなんとも、疲れる話である。

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