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第千二百二十二話

 美女、美少女揃いで、なおかつ椿の影響でハグに躊躇がない環境というのは、時島グループが最も規模が大きい。


 魔法省あたりも、アトムのスカウト力があって外見偏差値が高いが、基本的にマットブラックなので、そのあたりの勘が鋭い椿はあまりいかないのだ。


 そのため、よく突撃するのは時島グループとなる。


 で、これが影響で時島グループの社員は抱き着くという行為に対して抵抗がほぼないわけだ。

 少なくとも社内ではこれが発揮されており、刹那も結構抱き着かれている。


 ……ただ、過度にやろうとすると敦美から制裁されるのだが、その『過度』の基準は結構高めである。

 元々椿の抱き枕扱いでかなりもぞもぞしまくっている上に、刹那自身もかなり抱き着かれるのが好きらしい。


 しかも、敦美の娘ということは、時島グループの社員とも関わることが多いということであり、二十年前の過去にやってきた今、『みんな若い!』と思いながらも、その若くていい肌とハグができるのはうれしいようだ。


 そのため、『明らかに』と言えるレベルまでまさぐっていると手刀が飛んでくるものの、刹那はニコニコしながら抱き着かれている。


「刹那ちゃんの体。本当に柔らかいよね」

「うん。こっちがどんな体勢になってもそれに合わせてるし、細い体だけどちゃんとプニプニしてるし、なんだかスライムみたい」

「あー。確か、自分の体温もほぼ自由に変えられるスライムの存在が発表されてたよ」

「……マジでスライムなんじゃない?」

「いや、スキルで再現してるとかそんな感じでしょ。さすがにモンスターってことはないって」

「……じゃあ、私たちでも感知できないくらい、こっそりをスキルを使ってるんだ。凄いね……」


 時島グループの社員は、全員が清磨の『最高値移行(マキシマムシフト)』の影響下にある。


 要するに、全員がスペックの範囲内で最高の質を保っているのだ。


 そんな社員全員に気づかれないレベルの隠蔽力を持っているということであり、スキル発動があまりにも自然体なのである。

 清磨も敦美も、戦闘を行うことがあるゆえに、『相手に何をやっているのか気づかれないようにする』ということがどれほど重要なのかは理解しており、発動しているスキルを悟らせないようにする訓練は行っている……というか、それが必要であるということは沖野宮高校の授業でも教わることだ。


 もちろん、生徒たちだってそれを見抜くための訓練を積んでいる。

 しかし、刹那はそのあたりの技術が優れすぎているため、誰にも悟られないのだ。


 戦闘時の緊張感ではないため、社員たちの見抜く能力があまり発揮されていないことは事実だが、それだけで納得できるような話でもない。


「……なんていうか、ニコニコしてる小っちゃい子ってイメージだったけど、椿ちゃんと栞ちゃんと組んでるってことは、やっぱり相当なレベルなんだね」

「なんか、侮ってたよ」


 このような状態になる最も大きな原因は、刹那が承認欲求よりも抱き着かれたいという欲求の方が強いためだろう。


 事実として実力があるのは間違いないが、刹那にとって、人に見せるべき部分が実力ではないのだ。


 それゆえの行いであり、思ったよりも軸がある。


「……栞ちゃん。嫉妬してるかもね」

「あんなにブレない二人と組んでたら、そりゃねぇ……」


 元のスペックが高くても成長力が乏しい栞は、十六歳ということもあって悩み時だ。

 そんな中、あれほど軸がぶれない二人と組んでいたら、そりゃ二人を『理想』として、『目標』といて定めてしまう。


 そりゃ面倒なことにもなるだろう。


「まあ、私たちが考えることじゃないか」

「そうだね」


 清磨と模擬戦をしているという情報は入っている。

 ならば、清磨の影響を受けていくだろう。

 その中で、社員たちが介入する余地も意味もない。


 結論として、社員たちは椿や刹那とハグするだけである。

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