第千二百二十話
「むひゃあああ!」
「~♪」
「にゃふう!むうう!」
「~♪」
「むー……ムム」
「……♪」
「えへへ~」
全然わからない。
朝森宅のリビングで向かいあう椿と刹那だが、どんなことをしゃべっているのかさっぱりわからない。
「……栞、一応君も未来の人間だよな。椿の言っていることは分かるか?」
「知っていると思うけど、この椿の言語を解読できるのは全知神レルクスだけよ」
「え、じゃあ、刹那もわかってないのか?」
「わかってないと思うわ。というより、刹那のあの言葉だって、あまり意味があるようには見えないし」
「うーん。どういうことなんだろうな」
「どっちも独り言を言ってるだけっていう線はあり得るかな」
「あり得る時とあり得ない時があると思うわ」
「あり得る時があるのか……で、今回は?」
「単純に何かを頭の中で想像して、それの影響が自分の口に出てきただけね。多分」
広義的に言えば独り言であることに変わりはない。
「……はぁ、なんだか面子が濃くなってきたなぁ」
星乃がうなだれながら机に伏した。
未来でもいろいろあったと思われるが、おそらく、『揃い方』にもいろいろあるのだろう。
「まあ、頑張れ長男」
「父さん。それですべては解決しないって。ていうか、父さんだって長男でしょ。いっとくけどそこまで器用じゃないからな」
「……」
息子からの否定的な視線に対して、秀星は反論はしなかった。
「はぁ……あーでも、未来の清磨さんが言ってたな。この時間に刹那さんが来たあたりから、強くなれたって」
「ほう……刹那がねぇ。やっぱり未来から娘が飛んで来たら変わるのかな?」
「アトムさんって変わるの?」
「変わらないわけがないだろう」
「それもそっか」
親として当然のことだ。何も変わらないということはありえない。
「……私が父さんに影響を……どんなことなんでしょうね」
「む?栞が7歳くらいのときに、アトムさんと一緒にお風呂に入るのはいやって言ったとき、めっちゃ沈んでたって言ってましたよ」
父親……だな。娘にはいずれ言われることである。
椿はそんな様子がないけどね。
「私は気にしませんけどね!」
「〜♪」
「刹那は洗濯機に家族全員のものをぶち込みますからね。むふー!……あ、栞が泊まりに来たときは分けて洗濯してますね」
微妙に距離があるが、十六歳の女子高生であればそんなものだろう。椿と刹那のパーソナルスペースが狭いだけだ。
「距離感……か」
「ハハハ……不思議だね」
理解は……まあできませんな。




