第千二百十八話
「zzz……♪」
夜。
椿は栞と刹那に挟まれるような形で、ベッドですやすやと眠っている。
椿自身は刹那に抱き着いていて、栞は椿に後ろから抱き着くという、夏だと死んでしまいそうなやり方で三人は寝ている。
(これはいいですね)
そしてそんな様子を、セフィアはビデオカメラで撮影していた。
秀星のメイドとして最高の端末である彼女にとって、秀星の家族の軌跡を残すのは重要である。正直、これをしっかりやっておかないと、面倒になる日もきっと来るだろう。
というわけで、三人の様子をジーッと見ているわけだ。
「……にゅ~♪」
夢を見ているのだろうか。椿が笑顔になった。
(ぐふっ、かわいい……)
だんだん禁断症状が強くなっていくセフィア。
まあ、こんなのは序の口。
「ん~……」
もぞもぞ動く椿。
それに合わせて、抱き着かれている刹那の体も、けっこうグネグネと動いている。
なるほど、抱き枕にするとすごく良いといっていたが、そういうわけか。
あと、椿が結構刹那を離そうとしないため、香りもいいのかもしれない。
(体の柔らかさも大切ですね。匂いも重要と……そして、同年代と比べてもあまり育っていない体つきで、言ってしまえばやや貧相ですが、それが尚更、抱き着きやすさに繋がっていると……むぐぐ……)
悔しがるセフィア。
体格や体つきの話をすれば、まず間違いなく、セフィアは刹那とは対照的な属性である。
セフィアの身長は高め、秀星が巨乳好きなのでセフィアの端末は全て巨乳。お尻が大きくふとももも柔らかそう。
ただ、それら全ては、刹那とは対照的なのだ。
そもそも、年齢の割に椿だって胸以外は小さい方だ。というか、無邪気にはしゃぎまわるためか、脳内でデフォルメ変換されて余計に小さく見える(謎)。
そんな椿が抱き着きやすい相手となれば、自分よりもちっちゃい相手になるのは自明の理。
……いやでも、セフィアの体格に近くなってきている風香にも抱き着きやすそうな雰囲気で突撃するし……いや、理解しようとしても無駄か。ほぼ気まぐれだからね。
(ふむ……椿様から抱き着かれるためには一体どうすれば……)
皆椿が大好きだが、椿は一人である。
(……椿様のドッペルがあと百体くらい来ていただければ話は早いのですが)
未来の椿が爆発してしまうよ。
(仕方がないですね。まあ、育てるという意味では私の方が誰よりも上。引き際だけは間違えないようにしましょう)
メイドとは言うものの、別に全面的に出ることに対して躊躇はあまりないのがセフィアだ。
栞や刹那といった、椿の『友人』が未来からやってきたが、争奪戦に負けるつもりは毛頭ない。




