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第千二百十六話

 上位陣の実力が意味不明になっているというだけで、栞はとんでもなく強い。


 スペックそのものが圧倒的に高く、純粋に自分を高めてきた故に、その実力は神器使いと比べてもそん色ないくらいだ。


 ただ、純粋な意味で『真理』に近い秀星、才能という概念の大権化ともいえるアトム、物理的が概念の全てが作り替わる高志や来夏といった連中が相手の場合は文字通り『どうしようもない』のだが、スペックが許す限り質を最高まで高めるという仕様の清磨に関しては、まだ勝てるのだ。


「うおっ!ととっ、や、ヤバい火力してんな」

「その割に余裕があるわね」

「あー。そう見える?実は思ってるより余裕はねえぞ?」


 朝森宅の地下。


 そこで、模擬専用の剣を構えた清磨と栞が戦っていた。


 清磨は純粋な意味で高いスペックを活かして戦う剣士といったものだが、栞は、右手の剣から炎を出現させて、左手からは膨大な水を発生させて戦う魔法剣士といった様子。


 ただ、『真理』に近づいて、しかも魔力量もブーストされている清磨にとっては、確かに栞は強いのだが、『本気の出し方がわからない』栞を相手にするのは、無理ではない。

 しかし、それでもスペックそのものが清磨を圧倒的に上回っているのか、戦っている清磨としてはつらそうなのが、栞のスペックの高さ故だろう。

 こればかりは、やはり、アトムの遺伝子の影響が大きいのか。


「思ったより避けるわね!」


 炎の剣を振り下ろすが、清磨は剣を構えて受け止める。


 そこに一切の迷いはなく、簡単そうな雰囲気だ。


「うーん……軽くはないな。あーでもあれだ。無駄が足りないな」

「あら、あなたもそれを言うのね」

「気づいてないだろ。『とってる選択肢』がすげえ狭いわ」

「何が言いたいのかしら?」

「まあ、教科書通りっていうか、誰もが認める判定基準の上では最高峰に優れてるっていうか……ああ、あれだな。秀星先輩と比較すると分かりやすいな。簡単に言うと、『将来的に技術で超えられそうなこと』だけで戦術が構築されてる」

「それは初めて聞いたわね」

「秀星先輩が相手の時って、マジで何やってんのかわからん時がある。それこそ、何の役にも立たない思考実験とかを繰り返してるんだろうな。見えている世界の広さに差がありすぎる」

「……」

「もっと言い換えようか?栞がやってることって、すごく『簡単』そうにみえる」

「無駄がないから弱い……ということね」

「まあ、所詮『無駄』なんていうのは、短期的にしかものが見れない奴が使う言葉だぞ。秀星先輩は、そういうのを『余裕』って認識してるんだ。そこの違いだろ」

「私に余裕がないと?」

「焦ってるのは事実じゃね?てか、秀星先輩とアトムさんが散々政界で暴れまわってるだろうし、もうちょっと長期的にものを見れる連中が『上』でも増えてると思うんだが、思ったほどそうでもないのか?」


 時間の認識の仕方という点で、二人には大きな違いがある。


 どちらも、十六年しか生きていないという点では等しい。


 しかし、真理に触れた清磨は『視野』が拡張されているため、言い換えれば秀星に近いスケールで物事を認識できる。

 元からある大雑把な性格ゆえに、ストレスにもならない。


 ただ、栞の場合はそうではない。

 というより、アトムを見ていても、そういう時間の捉え方という点では学べないのだ。アトムは数分単位を五年から十年くらいの期間で予測して行動するからである。何の役に立つというのだ。


 加えて、秀星を軸として時間について視野を拡張する場合、椿という存在も大きい。

 大体何も考えていないし、椿には椿の時間のペースがあり、精神の軸がある意味で誰よりもブレないので、彼女も時間の認識の仕方が常人とは異なるため焦らないのだ。

 そういう存在を見ていけるという点で、『朝森家』というのは異常性が高い。オマケに高志もいるし。


「……はぁ、なんだか煮詰まってきたから、これくらいにしておくわ」

「だろうな」


 計画性があるのはいい。それはアトムと同じだ。

 ただ、頭の中で出来るタスクの量が全然違うのにアトムを見ていても、何も解決しない。


 考えるのではない。こういうのは、逆に馬鹿になった方がいい。


 アトムと秀星に仕込まれた部分もあるためか、栞という存在の質は高い。


 正直、遊んだ方がちょうどいい。

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