第千二百十五話
椿は大変満足しているようだ。
……なお、未来の椿の触覚が鈍くなるため未来からやってきた二人だが、別に過去に来たドッペル椿そのものに関しては、当然触覚の制限はない。
とはいえ、椿の性格なので、別に抱き着いたりしても不思議がられることはない。
「栞~!」
結果的に、栞と刹那は朝森家で居候することになった。
居候の理由だが椿がそれを望んだからということもある。
栞はアトムと話していろいろ定めたのか、朝森宅に帰ってきた。
そして、当然とばかりに椿が抱き着いている。
「変わらないわね……」
抱き着いてきた椿を受け止めつつ、自分もナデナデする栞。
「……刹那よりも気持ちよさそうに抱き着いてるな」
「……♪」
ちょっと沈んでいる刹那である。
まあ、体つきが貧相なのは変わらないので仕方がないね。
「栞って、すごく、なんていうか……隙がないけど、未来ではどんな感じなのかな」
「まあ簡単に言うと、容姿完成、成績完璧、スポーツ全能って感じですかね?」
「ヤバいというべきか。遺伝子自重しろと突っ込むべきか……」
アトムもまた容姿は優れて、圧倒的な才能は学力もスポーツも関係なくすべてできる。
……まあ、秀星から見ても、成長力という点では栞の方が低いと考えているが。
「父さんの劣化版と言われるのは癪だけど、否定はしないわ」
「まあ、こればかりは活用力の問題だからな」
「活用力?」
「要するに……必要なものを積み上げて強くなるって言うのが栞の考え方だと思うんだが、アトムの場合は、無駄なものでも一応積み上げておいて、脳をフル回転させて全部活用するために調整するんだ。言い換えれば、『無駄』っていう概念がないんだよ」
「……すべてを無駄にしない。ということ?」
「そうだ。まあ、全てを無駄にしないって言うのは、理想論でしかないが、アトムくらいヤバかったら、現実的には理想論でもできてしまうって言うのがあるからな」
「……」
天才すらも常識に縛られるような環境。
それ以上の地獄はない。
「まあでも、今はどうでもいいんじゃないか?だって目的がなぁ」
「確かにそうね」
椿をナデナデする栞。
「無駄なものですか……私の部屋にはあまりおいていませんね」
「え、じゃあ、栞の部屋にあった童貞を殺すセーターっていつ使う予定だったんですか?」
地雷を踏んだ。
「いだだだだだだだだだ!痛いですうううう!」
アイアンクローで悶絶する椿。
「……変わらないな」
「そうだね」
「~♪」
椿は椿だ。
結論としてそこに全て持って行けてしまうあたり、椿の影響力は果てしない。




