第千二百十二話
「そもそもの話だが、どういう理由でこの時代に来たのかな?」
「未来で椿が謎の発作を起こして、それが影響してるわ」
「なるほど、原因の根本はよく分からないということは理解した」
アトムの執務室。
タイピングをするアトムと、部屋にあった資料が入っているファイルを見る栞が話していた。
「確か、ドッペルゲンガーの方の感覚を未来でも共有しているんだったかな?」
「私のオリジナルは、感覚神経だけが鈍いと言っていたわね」
「大体察した」
パーソナルスペースがなく、『みんな大好き』を地で行く椿は、触れ合っていない時間が長くなると発作を起こす。
過去に来たドッペル椿は触れ合っているが、ドッペル自体はともかく、未来の方の椿は視覚に対して感覚が薄いため、『欲求不満』になるのだ。
未来ではなかなか治まらなかったということなのだろう。
「発作が起こる理由はわかった。その改善策として、ドッペルの栞と刹那が来たということは、ドッペル同士の場合は感覚も鈍くはならないということか」
「概ねそんな感じよ」
「ふむ」
要するに、『過去に行って椿に抱きついてきて』と言われて来たというわけだ。忙しいものである。
「とりあえず挨拶を済ませたら、椿のところに行くのか?」
「そうなるわ」
なるほど、事情はわかった。
わかったのだが……。
「なんというか、すごく忙しい話だな」
「そうね……」
もともと、椿のおもりは忙しい。
もちろん、一人でも結構フラフラするときはあるのだが、未だに両親と一緒に風呂に入るような子だからね。
(まあ、栞個人の方にも、なにか理由はあるだろう)
言ってきてと軽く言われて行けるようなものではない。
しかし、むやみに突っ込むものでもない。
言い出すのを待てばいいだけのことだ。




