第千二百七話
「……で、結局負けたんですね。あれほど余裕オーラかましてたのに」
「仕方ないだろ!あんなに強いだなんて想像できるか!」
時島グループの清磨の執務室。
そこでは、敦美がため息交じりに清磨に対してネチネチせめて遊んでいた。
「ていうか、敦美はなんか最初っから俺が勝てなさそうだって予想してなかったか?」
「当然ですよ」
「え!?」
「ホームページにグレイの強さが上がったってアップデートの告知がありましたから。三日前に」
「マジで!?」
「なので清磨様が入る前からわかっていました」
「……なんで先に言ってくれなかったの!?」
「言っても言わなくても戦いに行くと思っていたので、ならまあ放置でいいかなと」
「……」
仏壇から鈴を持ってきて鳴らしたかのように、チーン……と机に伏した清磨。
強いとか弱いとかそれ以前に、『戦う前から』という視点においてまだまだ甘い。
「ぐぬぬ……いったいどうしてこんなハメに……」
「単純に準備不足でしょう」
「……秀星先輩だってそこまで準備してるようには見えねえぞ」
「誰と比べてるんですか?というか、朝森秀星は準備をしっかりして戦っていますよ?」
「そうか?」
「そもそも、スペックの上では、神々の方が断然上ですからね」
「そうだっけ!?」
「はい」
「……なんか、簡単そうに倒してる感じがしてたけどなぁ」
「簡単そうにしているようにみえる技術は、大体、どれもこれも優れていますよ」
「……」
ぐうの音も出ない。
「あー、うん。準備は大切ってことだな」
「清磨様に準備をするということが具体的にどういうことなのかわからないと思いますが」
「それはさすがに……」
「無計画な人が準備という言葉を語ること以上に滑稽なことはありませんよ」
「がふっ!」
心に攻城兵器をぶち込まれたかのような感じになった。というか、やっぱり敦美は遠慮がない。
「まあ、仮に計画という言葉をしっかり理解しても、多分準備ができるかと言われればそうでもないと思いますけどね」
「何故!?」
「椿さんが準備できないのと感覚は同じです」
「え、俺ってあんな子だと思われてんの!?」
「似ている部分はあるでしょう」
「むぐぐ……」
清磨は馬鹿、椿はアホという違いはあるが、普段から見ている分には大きな差はない。
時島グループの運営の一番上の立場である敦美からすれば、どちらの計画性も皆無に等しいレベルだ。
もちろん、そのあたりの物差しは優れている敦美。自分の業務上、計画力が普通よりも上であることは分かっているが、それを差し引いてもこの二人の計画性は絶望的である。
「……じゃあ、どうすればいいんだ?」
「どうせわからないから。というのはテキトーにするための免罪符にはなりませんよ。というわけで、頑張って勉強してください」
轟沈再び。といったところか。
またもや、机に伏すことになった清磨である。




