第千二百二話
「敦美~。助けてくれ~」
「……」
会長室で敦美に情けない声を出す清磨。
実のところ、秀星が鍛えて『真理』に近づいたあたりから、やや達観した印象を抱いているのが時島グループの一般社員の見解である。
ただ……階級が上になってくると、『ああ。会長は会長だ』と思うものが占めているのも事実である。
実際、清磨を見て『大人になったね』というものは、時島グループの上層部にはいない。
「何があったんですか?」
「沖野宮高校の食堂から親子丼がなくなったんだよ」
「……」
幼稚になったな。と言いたそうな目になった敦美だが、本心は語らない。
「清磨様って親子丼が好きでしたっけ?」
「好きだぞ!具体的には好きなものの一つだな」
「ふむ……」
要するに、色々食べているけど、その食べているもの内の一つである親子丼がなくなったため、こんな情けない声を出しているということだ。馬鹿ではないだろうか。
「なんか失礼なこと思わなかったか?」
「そんなことはありません」
敦美視点では、清磨に馬鹿と思うことは失礼なことではないらしい。
「清磨様って、決まったものを食べる人ではなかったんですね」
多種多様なメニューが揃うレストランではなく、すし屋とかうどん屋とか、そういった方向性がある店だと、毎回同じものを食べる人はいる。
ただ、清磨はそういうわけではないらしい。
「……まあ、親子丼くらいなら私が作りますが」
「え、いいの?」
「ええ、前日に言っていただければ作りますよ。テキトーに」
「テキトーに!?」
とってつけたように苛める敦美である。
「それで、それ以外には特に何もないのですか?」
「……ああ。あとアレだな。俺さ。前よりも結構強くなっただろ?」
「そうですね」
「それで、結構いろんなところから電話がかかってくるんだよ。『プレミアムの上はないのか』って」
「ふむ……」
敦美が考える普通の規定値を満たす魔石を大量に確保し、それを清磨のスキルで強化する。というのが基本であり、今のところ、その『一つ上』しかない。
もっと階層を上げられないか。ということなのだろう。
敦美は現段階で行っている魔石オイルの方の業務も同時に頭の中で計算しつつ、頷いた。
「なるほど、確かに、清磨様が強くなったことで段階を上げることは出来ますが……清磨様自身、朝森秀星からいろいろ言われていることがあるのでは?それの『成長ノルマ』はこなせるのですか?」
「……なんでそれがあるって知ってるの?」
「まああるだろうなって思っただけです。それで、どうなんですか?」
「……正直、キツイかなって思う」
「ならやりませんよ」
「え、そうなの?」
「すぐに破綻するシステムを組んでも損失しかありません。机上の空論で企画を持ち出さないでください」
「あ、はい。すみません」
企業を運営するという意味で言えば、敦美が清磨を会長に据えているというのが現状である。
ただ、清磨自身に、経営する能力など持っていない。
そのため、『今からこの企画をやるとなれば何をすればいいか』という部分で、バランス感覚がないのだ。
さすがに任せられない。
(……はぁ、『真理』ですか。どうやら、人を強くすることはあっても、育てるわけではないようですね)
敦美は内心で溜息をつきながら、子供っぽい清磨を見るのだった。




