第千百九十四話
『グレイ :……よし、椿はいなくなったな』
『ロイゼ :マジで驚いたわ。あの子っていつもあんな感じなのか?』
『マクラ :そんな感じだと思うよ』
椿は完全に気まぐれで入ってきたようで、すぐにチャットから退室した。
『マクラ :しかし、本当によくわからない子だね』
『グレイ :しかも、あの無敵感はよくわからんな』
『ロイゼ :……ん?ちょっと『無敵』って形容の具体的な内容がつかめないんだが?』
『グレイ :実体験だが、椿とリアルで戦ったことがあってな。元気にはしゃぎまわっていたが、我の攻撃が一切通用しない』
『マクラ :どういうことなのかな?』
マクロードは内心で首をかしげているようだ。
彼も椿と戦ったことはあるが、それは椿が寝ぼけているとき、要するに未来の堕落神ラターグによってテコ入れされたときであり、純粋な意味で椿を相手にしたことがない。
『グレイ :世界最高峰の再生能力ともいえるか。どのような攻撃を叩き込んでも、すぐに元に戻る』
『マクラ :一撃で思いっきり叩き込めばいいんじゃないか?』
『グレイ :外からの衝撃の処理構造が通常の人間とは違うようで、あまり、何かが通用している感覚がしない。一瞬で燃やし尽くすブレスを放っても、決して椿の……『中』といえばいいか?そこまで攻撃が通らず、一秒で全快して『うにゃあああ!』って復活する』
『ロイゼ :理不尽だああああ!』
『マクラ :どういう体の構造になってるんだ……』
『ロイゼ :明らかにギャグマンガの住人だろ!』
『グレイ :本当に何も通用しない。あれはマジで無敵だ。痛みを感じてないんじゃないかアレ』
『ロイゼ :うーん……でも、他人の逆鱗に触れてアイアンクローされてるときはめっちゃ痛がってるぞ』
『マクラ :愛情がこもってる攻撃だけ通用するとか?』
『グレイ :多分それだと、体に傷が残るような攻撃が一切できないぞ』
『ロイゼ :そのラインを超えると虐待になるからな……』
『マクラ :結局のところ、解決策がないね』
『グレイ :しょっちゅう挑んでくるからなぁ。何か対抗策を考えないとラスボスとして沽券がな』
『ロイゼ :え、沽券なんてあると思ってるの?』
『マクラ :何を今更』
『グレイ :貴様らも同族だろうが!』
ワーワーとチャットで騒ぎ始める三人。
……ラスボスと言うより、単なる子供である。
ただ、椿がどうしようもないことは事実であり、どうにかしなければならない。
いろいろ、思惑は違う部分はあれど、『ラスボスとして』という世界観を満たさなければ、何もなしえないのが彼らなのだから。




