第千百八十七話
ダンジョンを進む秀星、風香、椿、敦美の四人。
奥底になってくると、回り道と近道に分かれていた部分がなくなり、単純に強いモンスターだけが出てくる仕様に変わった。
出てくるモンスターに関してもかなり強いものが多くなっている。
マクロードの『因子』の都合上、どうやら無機物よりも有機物の方が強化しやすいのか、無機質なモノばかりになる罠に関してはほぼ存在しないものの、モンスターに強化値を振り込むことにしているようだ。
結果的に、余裕を持って戦えるのは秀星と風香という形になっている。
「お父さんとお母さん強いです!」
「どちらも神器所有者……というだけではありませんね」
椿と敦美はほぼ観戦である。
そしてセフィコットがビデオカメラを手に後ろから付いていく形だ。時々、椿や敦美のスカートの中を覗こうとして敦美に踏み潰されて、『ゆるしてくれえええっ!』と言わんばかりにジタバタするという結果になっている。
懲りない人形である。そういう性格になるよう作ったのはセフィアだが。
「もうそろそろ最奥か」
「そうですね。どんなモンスターがいるのか楽しみです!」
最奥らしいデカい扉。
この奥にボスがいる。
「カードダンジョン以外のダンジョンに入るのも久しぶりですが、ここまで強いダンジョンだとどこまで強いものが手に入るのか期待できますね」
敦美がつぶやく。
すでに、彼女一人……いや、清磨ですらギリギリいけないであろう難易度になっているダンジョンだ。
秀星なら散歩感覚だろうが、敦美にとっては貴重なデータである。
「行くか」
秀星が扉を開けた。
ダンジョンのボスは……。
「よく来た。挑戦者たちよ」
頭には仮面をつけて素顔を隠しつつ、真っ白のロングコートと長剣を装備した存在だった。
「完全に人型のラスボスか。なかなか珍しいな」
秀星はプレシャスを構えて前に出る。
「フフッ。この奥にある宝はやらんぞ。挑戦者よ。いざ、参る!」
ボスは超高速で突撃すると、秀星に剣を振り下ろす。
だが、秀星はプレシャスで受け止めた。
すると、ボスの剣にヒビが入った。
「これはマズい!」
ボスが距離を取る。
「……」
秀星もこれには絶句である。
確かに、道中がほぼ散歩感覚だったので、そのラスボスといえど、そこまで大したものではないことは分かっていた。
だが、差がありすぎなのである。
「むうう!斬撃でどっぷり組み合うところが見たいんですううう!」
椿が絶叫。
「無茶を言うな。一回振ったら剣にヒビが入るんだ。こちらも考える知能はあるのでね」
バカじゃないからね。
「むふうう!戦いながらでも考えられますよ!男のくせにそんなこともできないんですか!」
「椿ちゃん。最近は男女平等って言われるから、男のくせにとか言っちゃだめだよ」
「む、そうなんですね。わかりました」
再びボスの方を向く。
「人間のくせにそんなこともできないんですか!」
「ごめん、性別入れてワンクッション置いてくれない?」
ごもっともである。
「……ただまぁ。思ったより余裕そうだな。剣も業物感はない。遊んでやるから本気の剣を出せよ」
「フフッ。やれやれ、仕方ないか」
どうなっていようと、喋る余裕があるのなら、それは本気ではない。
それがわからない秀星ではないし。ボスさんもそこまで弱いと思われたいわけではない。
準備運動すらやっていないが、まあ、ここからが第二ラウンドと言えるだろう。




