第千百八十五話
「zzz……にゅ~……」
椿にとって、はしゃぐことというのは普通のことであり、活力があふれまくっている彼女にとって、抱き着いたりするというのは日常的なことである。
ただし、前提として独自解釈性能が強く、だいたいのことにストレスを感じないし、感じたとしても他のことで吹っ飛ぶ体質である。
なお、抱き着いたりすることが多いのが風香であることからお母さんっ子であることは間違いないが、いざという時に、頼りにする相手はやっぱり秀星である。
世界一位の男という称号が伊達じゃないということを、椿もよく理解しているのだ。
秀星が一度警戒するとなった場合、その影響範囲は広い。
椿は基本気まぐれだが、それでも、秀星が傍にいるときは、気まぐれに『就寝』が入ってくるときがある。
「フフッ、かわいいなぁ」
風香は自分の膝枕で眠る椿の頭を撫でていた。
ダンジョンの安全地帯にマットを敷いて、そこで椿が『ふあああああ……』とあくびをしたので、こうして寝ているというわけである。
「モンスターが強くなっても、秀星先輩にはかないませんし……こういう所でも普通に寝始めるというのはなかなかですね」
「まあ、基本的に熟睡できる奴なんていないからな」
挑戦していて、結果的に長くなることは多々あるが、そもそも長居する場所ではない。
挑む側の環境を配慮したものではないし、何より、ダンジョンという、周りに敵しかいないという状態だ。
モンスターは入ってこないが、他の人間は入ってきて自分に害をもたらすことができてしまう。ということもある。
少なくとも、熟睡などできるわけがないし、出来たとしてもやるべきではない。
……のだが、秀星が傍にいる場合、それらの常識はとりあえず置いておくとして、寝てもいいよね。と椿の中ではなるらしい。
信頼していると言えばそれまでだが……。
「まあ、かわいいから良いと思うよ?」
風香はそういった。
……正直、こういうことを言われてしまうと、話の出発点と終着点が決まってしまうのでアレだが、まあ、仕方がない。
とりあえず、椿ちゃん。おやすみなさい。




