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第千百八十話

「焼きそばが食べたいです!」

「買えばいいでしょう。稼いでるんですし」


 ダンジョンの奥深く。


 子守り役を敦美として、椿は叫んでいた。


 やることの九割が気まぐれの椿にとって、この程度のことは日常茶飯事。


 敦美も慣れたように対応している。


 ……いや、慣れたように対応できる部分と出来ない部分がある。といった方が正しいか。


「む?」


 椿が下を見ると、そこにはセフィコットが。


 焼きそばが入ったパックと、割りばしが用意されていた。


「おー!ありがとうございます!」


 椿はそれを受け取って食べ始めた。


「……はぁ」


 言いたいことはいろいろあるが、まだその感情に名前がついていないゆえに、溜息を立って口から洩れる敦美。


「……あ、私の分もあるんですね」


 セフィコットは椿が大好きですが、椿と楽しく接してくれる人も大好きです。


 というわけで、二人で焼きそばを受け取って食べる。


「む~♪おいしいですね!」

「確かにおいしいですね」


 究極メイドであるセフィアが作った『端末』ともいえる存在のセフィコット。


 当然、その性能は圧倒的であり、特に何も持ってない奴が何もない所で転ぶという謎の現象が発生することも多々あるが、本当に性能は高いのである。


「はぁ、一家に一台……いけますよね。個体数的に」

「まあ行けると思いますよ?」


 そもそもセフィアの端末の時点で、全人口の三倍以上は確定している。


 当然、それより安く作れるし、なんだか大量にいる印象があるセフィコットが、一家に一台出来ないということはないだろう。


「まあでも、お父さんはそういう風に配る人ではないですからね。世界中が災害の襲われるくらいじゃないと出さないと思いますよ?」

「そうでしょうか」

「お父さんにも嫌いなやり方はあるということですよ!」


 まあ、誰しもがそういうものを抱えているものだ。


 秀星にだってそれはあるし、例外ではない。


「ごちそうさまです!さて、行きますよ!」


 そのままダンジョンの奥にめっちゃ笑顔でピューーーッ!と走り去っていく椿。


「……セフィコットさん。椿さんを連れ戻してくれませんか?追いかけるの面倒なので」


 敦美にそんなことを言われたセフィコットは、『無茶いうなよ』という雰囲気を醸し出しながらも、椿を追いかけていった。


「こればかりは割り切れませんね」


 慣れていく部分はある。


 そして、初見として合わない人間であっても、椿に接していくと、だんだん折り合いをつけていくものなのだろう。


「……はぁ、あそこまで、わかりやすく、矛盾を抱えていない人間は他にいませんね」


 内に秘めているものと、表に出ているものが全く一緒。


 だからこそ、『嫌いになれないアホ』という言葉の通りである。


 そして一切ブレないからこそ、椿という少女の精神性は担保されている。


 しかし……何の葛藤も矛盾もないというのは、なんとも、人間らしくない話だ。

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