第百十八話
FTRが動き出している。という情報。
秀星からすれば、たとえ悪の組織であっても、組織をつぶせば問題がすべて解決する状況に収まっているのなら別に何をしていたとしても干渉しようとは思わない。
人体実験だとか、そういう下手にいろいろなものを巻き込む行為は秀星の志向の都合上受け付けていないのだが、そうでなければ何もしないのだ。
もちろん、十兆を超えるセフィアを地球に放てる秀星ならば、ひと声かけるだけでそういった組織すべてをつぶすことはもちろん可能だが、秀星のような馬鹿が本気を出すと失業率が急上昇する。
そうなると、多くの人間が秀星に取り入ってくるのだ。
それそのものは悪いことではないし、セフィアが時々暴れているので裏社会に回っている金を集めたりもしている。
だが、秀星は基本的に浪費癖というものはない。
基本的にすべて自分でできる。というより、全部自分でやったほうがクオリティが高いからだ。
しかし、全部自分でできる人間がすべての仕事を独占するとそれはマズいことになるので、秀星もあえて放置するときはある。
もちろん、秀星が動けば助けられる命もあるだろう。
しかし、こう言ってはなんだが、神器を十個持っている秀星にとって、命は軽いのだ。
それに難易度も高くはない。
確かに襲撃する回数が多かったり、そういった被害件数が限度を超えてくると秀星も腰を上げるのだが、密輸だとか密入国に関しては秀星は気にしない。
いつでもつぶせるのだ。
なので、強くなってからまとめてやるのが秀星流ともいえる。
話がかなり脱線してきている気がするので何が言いたいのかというと。
『FTRが動いているみたいだけど別に興味はない』ということだ。
★
「『おとぎ話の現実化』ですか……そのような組織があったのですね」
「思えば私も、話だけはちらほら聞いてたけど、あまり大したことは聞いてないよ」
雫は、FTRがつぶれたころに評議会の地下から脱出した。
エイミーは、海外で散々逃げ続けて、つい最近日本に来た。
さすがに知らないのも無理はない。
「今度は何をするつもりなんだろうね」
「前回は魔竜の召喚だったな」
風香と羽計もFTRのことを思い出している。
評議会をはじめとして様々な組織から集まるように生まれたのがFTRという組織だが、魔竜を使ったデビューですごく失敗したのであれから音沙汰なかった。
「まあ俺もよくは知らんが、会長は兵器型というか、SF型というか……そういったものを想定してるって言ってたな」
「近未来兵器みたいなものを出してくるということか?」
「言い換えるならエイミーの武装みたいな感じだな」
あとは会長が使っているようなもの、秀星でいうとマシニクルに近いだろう。
「でも、FTRの技術なんでしょ?すごいものが出てくるんじゃ……」
「いや、そもそも前回の魔竜に関して言えば、あれはカルマギアスのみで作っていたものだ。俺が一方的にボコボコにしたけど」
「うわー……敵ながらご愁傷様だね」
雫も苦笑いである。
いろいろな組織が秀星を敵に回さないように動いている中、何とかして目的を達成しようとしているのは認めてもいいのだがな。
「でも、いろいろなところが集まっているという話です。少し不気味ですね」
「秀星君。FTRの本部の場所って知ってる?」
「もちろん」
エイミーがいろいろ考えているときに風香が秀星に聞いてきたので、秀星は即答する。
そしてそれと同時に、空気が凍った。
「……え、知ってるの?」
「ああ。知ってる」
「じゃあ、今すぐみんなで行けるの?」
「それは無理だ」
確かに、秀星はFTRの本部の場所を知っている。
というより、ワールドレコード・スタッフがあれば場所など一目瞭然。
ただし、その内部構造まではわからない。
「即答するってことは、秀星君でも準備がないと無理ってことなんだ」
「でも、すでに知っているのはさすがだね!」
「だが、なぜ行くことができないんだ?」
「そうですね。どこにあるのかがわかれば、必然的に行けると思いますが……」
そういうわけでもないのだ。
「別空間にあるんだよ」
「……え?」
「別次元に拠点を作ることが出来るアイテムを使っているんだ。だから、それを渡る手段を手に入れないと、入ることは不可能なんだよ」
厳密に言えば、秀星だけであるなら問題は何一つない。
異世界から地球に帰ってきたとき、神器の力を使いまくって時空のはざまを走ってきたが、似たようなことをすればいいのだ。
異世界を渡るほどの労力にはいずれにせよならないだろう。
むろん、こんな面倒なことになっている理由は、その『別次元に拠点を作ることができるアイテム』というのが『神器』だからである。
どんなものなのかを判断するのはすごく面倒なのだが、神器であるかどうかを判断するのはすごく簡単なのだ。
詳しくは言えないが、神器というのは、神がつかう力そのものを用いてその機能を行使している。
明らかに普通とは違うものであり、確認する手段も実は簡単なのだ。
「別空間……秀星さんはつくれるのですか?」
「もちろん」
エイミーの問いに即答する秀星。
神器を十個も持っている秀星だ。
それぞれの機能を組み合わせれば、疑似的にそれを作ることはできる。
ただし、神器の機能を行使して作ることはできても、実際に神器に匹敵するかどうかとなれば話は別だが。
少なくとも、求められる規模の空間を作ることは可能である。
「いろいろ規格外だな」
「今更だね!」
「まあでも、FTRが何かしてきても、秀星君がいるから何とかなるか」
いずれにせよ、秀星が負けるビジョンが見えない。
共通しているのは、要するにそれだけである。




