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第千百七十七話

「ねえ、秀星君」

「どうした?」

「椿ちゃんの発作って、何なんだろうね」


 とあるダンジョンの奥深く。


 現代の日本人魔戦士の平均的な実力からすれば、十分絶望できそうな階層ではあるのだが、世界一位と魔法省から公式発表されている秀星にとってはそうでもない。


 出現する全長十メートルオーバーのモンスターを神器でワンパンしながら、奥へと進んでいく。


「……セフィアに聞いたが、『パーソナルスペースがゼロである椿にとって、触れ合っていないことがストレスになっている』のが原因って言ってたな」

「へぇ……あれ、それって、『たまりたまって』ってことだよね。『禁断症状』じゃないの?」

「どの程度のストレス値で興奮するのかが完全にランダムだから、『発作』って表現でいいだろ」

「そういうことなんだ」


 常に気まぐれ。ということなのだろう。


「てことは、あれでもまだ欲求不満ってことなのかな。結構スキンシップが激しいけど」

「だろうなぁ……」


 椿はみんな大好きで、みんなも椿が大好きだが、こちら側にやや羞恥心があるからだろう。


 公衆の面前だろうと全力ハグができる椿に対して、合わせることができる人間はそうそういない。


 それこそ、未来で大人になった風香だとか、そういった人たちでなければ無理だ。


「……ただ、これもセフィアが言ってたことだが、赤ん坊のころの椿って、風香にべったりってわけではなかったらしい」

「そうなの?」

「夜に寝るときは風香と一緒じゃないとダメっぽいけど、昼間はそうでもないらしい」

「そうなんだ」


 子育ての主婦というのは年から年中忙しいものだが、朝森家の場合はセフィアがいるので家事は問題ない。


 夜に寝る時だって風香は一緒にいる。


(ていうか、星乃が言うには、風香は買い物に行くときに限って冷凍庫がパンッパンになっているくらいの計画性だし、あまり家事をやらない方が良いような……)

「秀星君。何か失礼なことを考えてない?」

「いや、そんなことはないぞ」


 誤魔化し方が誰かさんに似ている。

 というか、その追求の仕方……椿は母譲りだったのか。


 で、秀星の返し方で関連人物を思い浮かべたのか、溜息を吐きながら風香は話題を変えた。


「……そういえば、清磨君を結構気にかけてるよね。あれってどういうことなの?」

「アイツが狙われる可能性が高いからだ」

「え。そうなの?」

「ああ。カードダンジョンのボスには、全て『最高値移行(マキシマム・シフト)』のスキルが使えるんだが、これ、清磨と比べると劣化品でな……」

「そっか。研究するにしても奪うにしても、清磨君への接触は避けられないってことだね」

「そんな感じだ」


 だからこそ、強くしておく必要がある。


 せめて逃げることさえできれば何も問題はないのだ。


 後で秀星が何とかします。


「……で、このダンジョンの奥って何があるの?」

「俺の計算が正しければ……このダンジョンの奥にはとあるアイテムが安置されているはずだ。それを取りたい」

「へぇ……秀星君がアイテムを取りに行くなんて珍しいね」

「いや、俺だって時々あるぞ」


 大体自分で何でもできるが、他の人が確保すると面倒だと思ったものを手に入れておいたりとか、異世界でもしょっちゅうでした。


「さてと……ぱっぱと進むか。俺がダンジョンに入っている間に、敵さんが面倒なことをし始めたら目も当てられんし……」

「そうだね」

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