第千百七十四話
「私は思うんです」
「?」
「むはああっ!と思うんです!」
「……」
椿の真面目は五分も持たないね。
とはいえ、誰かに影響されるような性格なら、そもそも今の椿の性格が維持されることはないか。
「……なんていうか、その、こんな椿ちゃんと一緒にカードダンジョンに潜りまくってたんだな」
現在、椿、沙耶、敦美、清磨の四人は、時島グループの会長室で話していた。
「大変でしたよ」
敦美は疲れたような表情でそういった。
というか、真面目に疲れている。
だって……だって、椿ちゃんってどんだけ頑張ってもあほなんだもん!
「というか、会長は何をやってたんですか?」
「あー、秀星先輩と他のダンジョンに潜ってた」
「おや?社員からは業務で使う魔石があったと言ってましたが」
「秀星先輩は片手間で俺たちが使う魔石を用意するなんて造作もないからな」
「それはそうですね」
あのチート野郎。本当に何でもできるな。
「基本的には秀星先輩からいろいろ教えてもらったよ」
「それは技術的な意味ですか?」
「そうだな。戦闘における技術っていうのかね?それをいろいろ俺が分かるように教えてもらったよ」
「思ったほど疲れてるように見えませんが?」
「基本的に新しい技術と、それを簡単に習得できる反復練習の方法を教えてもらっただけだからな」
「ほう……」
「敦美はできないぞ。秀星先輩から魔法でちょっと俺の体の中を弄られたからな。それがないと効果を発揮しないようになってる」
「……チッ」
舌打ちすると、敦美はタブレットを見る。
業務でいろいろすることがあるのでその確認だろう。
「お父さんは未来でもいろいろやってますからね!」
「ほう、どのような?」
「『腐敗した議員共がウザいな』って言って、一度日本を独裁政治に変更して、一掃した後でまた民主主義に戻しました!」
「「!?」」
「うっ!?」
爆弾発言。という言葉では過ぎないだろう。
というか、そのようなことをアトムが容認するだろうか。
……いや、まあ、ある意味、独裁政治というのはトップが文字通りすべてを決めるものなので、政治を一人の人間が自由に変更可能だ。
強引な解釈だが、最強の荒療治ともいえる。
「……すげえことやったんだな」
「あとでお父さんは『酒の席で政治のことをしゃべったらだめだな』って言ってました」
「それで日本を独裁政治にしちゃうのか……っていうか、独裁政治にするうえで行動するとき、終始酔っぱらってたんじゃないか?」
「まともな判断ができていた状態とは思えませんね」
で、気が付いたときには独裁政治になってるから、『これを利用して日本政府を洗浄しようか!』と張り切ったといったところか。
強者が酒の席で暴走するとロクなことにならないが、その最強の前例となる気がする。未来の話だけど。
「マジで意味わかんねえな。あの人」
「というか、そんな簡単に、日本って独裁政治に変われるんですか?」
「お父さんって基本何でもできますからね」
「「……」」
まあ、いずれにせよ、秀星を暴走させるとロクなことにはならないというのは事実か。
肝に銘じておこう。




