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第千百七十二話

「むっはー!ノルマの100倍ですよ!カードめっちゃ集めました!もう飽き飽きするダンジョンに入る必要はありませんね!うにゅうううう!」


 椿はカードの納品数が書かれたスマホページを掲げつつ叫んだ。


「……クリア数4000。まあ確かに、意味不明なほどやっているのは事実ですね。で、これから何か予定はあるのですか?」

「むー……特にないですよ」


 敦美の問いに対して真顔でそんなことを言っちゃう椿ちゃん。


 基本的に九割気まぐれな彼女らしい考えである。


 カードダンジョンの付き添いと、時島グループの経営を並列して行っていた敦美からすれば喉から火が出るほどの暴挙だが、椿はこれでも許されます。


「……はぁ、特に予定がないのなら私は帰りますよ」

「むー……」

「うー」

「む?沙耶ちゃん。さすがにそれは敦美さんもダメだと思いますよ」

「うー」

「いや、多分それもダメだと思いますよ」

「うー!うー!」

「そんなこと言われても無理ですよ!むっはー!」


 全然わからない。


「……沙耶さんは何を言っているのですか?」

「む?」


 首をかしげる椿。


 ……本当に会話できているのだろうか。


 いや、出来ているときと出来ていない時があっても別に不思議ではないんだけどね。椿だし。


「うー!」

「わからない言葉でしゃべっているときはちょっと黙ってて――」

「敦美さんの胸はFじゃなくてGですよ!」

「……」


 溜息を吐く敦美。


「……もしかして狙ってますか?」

「え、何の話ですか?」

「あなたには聞いていませんよ」

「うー」

「何を今更って言ってますね」


 敦美。アイアンクロー。


「ううううう~~~っ!ううううう~~~っ!」


 やめてくれええええ頭が潰れちゃうううう!と言わんばかりに絶叫する沙耶。


「何を言っているのかさっぱりわかりませんね」


 真顔……の中にちょっとだけ嗜虐的なものを混ぜる敦美。


 数秒で解放された。


「ううっ……うう~」


 唸り声ともいえる声色になっている沙耶。


「な、何をしているんですか!?沙耶ちゃんは何も悪いことをしていませんよ!」

「ええ、悪いことはしていませんよ。ただ、腹が立つことをしていたから制裁を加えただけです」

「沙耶ちゃんはまだ赤ん坊ですよ!?」

「精神年齢は椿さんと同じです。なので問題はありません」

「むー……む?それって私が赤ん坊みたいってことですか!?私はれっきとした高校生ですよ!むふー!」


 とても高校生とは思えない。


「どうでもいいんですよ。ただ、ちょっと真面目にやってくれませんか?私はこう見えて忙しいんです。疲れてるんです。あんな何考えて行動しているのかよくわからない会長に加えて、脳みそスカスカで頭カラッポで思考回路ポンコツな少女の子守りなんてやってる時間は本来ないんです。わかってますか?時島グループって今、すごく大きいんですよ。経営の一番上である私は現場にいなければならない時間も多いんですよ。急遽ナンバーツーを用意してマニュアルも与えて、問題があった時は何とかなるようにしていますけどね。処理速度は私の方が速いから私がいた方が良いんです。しかもダンジョンとダンジョンの外を繋げる魔法の開発すらできていないのにダンジョンに拘束するって舐めてるんですか?舐めてますよね。他にも子守りができる人なんてたくさんいるはずなのに私がなんでやらなくちゃいけないんですか。私を指名したのはあのゴミクズの魔法次官らしいですね。ぶっちゃけ私はカードダンジョンなんて興味ないんですよ。だって攻略が推奨されてるってことは安定した魔石の供給源になりませんからね……ちょっと、聞いてるんですか?」


 椿は固まっていたが……


「……ごめんなさい!真面目にやります!」

「よろしい」


 罵詈雑言ではなく、最初から最後までずっとネチネチネチネチ言いまくった敦美に恐怖したのか。さすがの椿も反省したようだ。

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