第千百七十話
椿は我がままではあるものの、決して話が通じないわけでもないし、諦めるということができないわけでもない。
まあ、物によっては諦めるまでに相当の時間がかかることもあるのだが、それでも『ダメだこりゃ』と思う部分はいずれ出てくるのだ。
……さすがの椿も、『セフィアさん、これを美味しくしたいです!』と言って、『どんなものでも美味しくなるシロップを用意しましょう』とセフィアに言われると、どうしようもない。
椿だってさすがに諦めるというものだ。往生際が悪いのが椿だが、さすがにそういう事を言われてまでものをどうにかしたいという情熱を持っているわけではない。
そもそもゴーヤドラゴン味なるアイスに熱中しているのも気まぐれだ。
「むうう、おとなしく次のダンジョンに行きますよ」
「うー」
「沙耶ちゃん。そんなどうでもいいっていう目で見ないでほしいですぅ」
沙耶はお菓子メーカーで大量のビスケットを作って食べている。
甘い物、というかお菓子も全般的に大好きなのが沙耶であり、お菓子メーカーという最強の物を手に入れてしまったので、他のことは大体些事である。
ぶっちゃけ椿の決意表明なんぞに微塵も興味がわかないのだ。
「そういうことなら、別のダンジョンに行きましょうか。推奨されているノルマはクリアしていますが、攻略数が多いに越したことはありませんし」
「む、そうですね。行きましょう♪」
切り替えが速いというより、それまでのことを忘れる速度が異常の椿である。
ゴーヤドラゴン味のアイスのおいしさを広めたかったのかもしれないが、無理なら無理で引きずったりしないのだ。
というわけで、次のダンジョンに向かう用意をする。
「……なんだかとても単純ですね。まあ、わかっていたことではありますが」
「うー」
沙耶は何をいまさら、といった様子でビスケットをむしゃむしゃ食べている。
本当にどうでもいいようだ。
まあ、甘い物を大量に食べられるのなら、沙耶はそれでどうでもいいと思っている節があるので、マジで興味がない可能性もある。
ただ、それでも攻略には付いていくようなので、本気で怒りのオーラを出す敦美のことは怖いのかもしれない。
「うー……」
何か、思うところがあったのか、沙耶はもう一度呟いた。




