第千百六十九話
「なんでみんなゴーヤドラゴン味のアイスを食べてくれないんですか?」
「マズそうだからでは?」
やたらとこだわっている様子だが、一体どういうことなのだろうか。
「というか……ゴーヤドラゴン味と言っていますが、ドラゴン要素が感じられませんが?」
敦美は一応試食している側だが、本当にドラゴン要素がないのである。マジでゴーヤの味しかしない。
なのに、なぜ椿はドラゴン要素をつけたがるのだろうか。
不思議というか、純粋に『何故?』と思う。
「雰囲気ですよ!雰囲気!」
「雰囲気でドラゴンは出てきませんよ。食べたことないんですから」
最近のモンスターはダンジョンでしか出てこないし、ダンジョンのモンスターは、肉片だけを取り出しても、すぐに魔力の塵となって消えていく。
ネクロマンサー涙目の仕様だが、これは事実なので仕方がない。
ついでに言えば、ダンジョンの外でモンスターの研究をするとなった時に恐ろしいほど苦労する羽目になるのだが、まあ……ここで議論しても仕方がない話だ。
「私は未来でドラゴンの肉を食べたことありますよ」
「どういうシチュエーションですか?」
敦美の予測でしかないが、今のところ、モンスターはダンジョン産で、倒したら塵になって消えていくというスタイルが、一番『管理しやすい』と考えている。
そのため、魔石を安定的に集めるためには、未来でもダンジョンばかりになっているだろう。
ドラゴンの肉を食べるというシチュエーションは一体どういうことなのだろうか。
「お父さんに創造魔法でドラゴンの肉を出してもらいました!」
「……」
まあ、大体何でもできるからね。仕方ないね。
「ドラゴンの肉ってどんな味なんですか?」
「うーん……結構噛み応えがありますよ!」
陳腐。
「そうですか」
まともな感想を椿に求めたのが間違いだった。
「では、その味を再現するというのは?」
「うーん……それってアイスクリームに求められますかね?だって肉ですよ?」
「あなたがそれを言うんですか?」
さっきまでドラゴン推しだったのに、それを根底から覆すようなことを急に言わないでいただきたい。
「むふううう!私はですね。もっとみんなに私が作ったものを食べてほしいんですよ!」
「ならもっと美味しそうなものを作りましょうよ。なんでゴーヤなんですか?」
なんでゴーヤを選ぶんだ。
一体何のこだわりがあるんだ。
敦美お姉さんに教えて見なさい(混乱)!
「嫌いなものを克服した方が人生楽しいじゃないですか!」
「……椿さんは嫌いなんですか?」
「私は普通に食べられますよ」
「そうですか」
敦美としては椿がゴーヤを食べられること以上に、『人の好みを判断する知性がある』ということの方が驚きだが……そんなものだろう。
「というわけで、セフィアさんに聞いてみますね!」
「……お好きにどうぞ」
セフィアはこのゴーヤ味のアイスをどうするつもりなんだろうね。




