第千百六十二話
(……会長以外の誰かとダンジョンに入るのは久しぶりですね)
「ふーっ!ふーっ!うにゃああああ!」
「うーっ!うーっ!ううううっ!」
(……はぁ、なんだか早くもお腹いっぱいになってきました)
敦美はなんと、椿と沙耶を連れてダンジョンに入っていた。
秀星も風香も高志も来夏も忙しいということで、いろいろな人がごちゃごちゃとめぐりめぐって、何故か敦美に子守りが任されたのである。
マジで地獄だ。
しかも、これがレンガで作られたような普通のダンジョンに潜るのであれば、何も問題はなかった。
だが……。
「お菓子だらけでううううっ!」
「うーっ!うーっ!」
最近わかってきたカードダンジョンの法則だが、どうやら、ダンジョンを大きくする際に『世界観』というものを求められるようになるらしい。
ダンジョンごとにその『概念』が設定されており、それらに沿った項目に従って配置すると、ポイントの消費を抑えることができるようだ。
当然、登場する『強力なモンスター』たちも、それに沿ったモンスターにすることで、ポイント効率的に低燃費ということらしい。
「……はぁ」
そして、今回やってきたのは、まさしく『お菓子の国』と呼べるような場所だ。
敦美の鑑定スキルでは『食べても無害』のお菓子が多数配置されており、しかもそれら全てに『腐敗無効』が適用されているという徹底ぶりだ。
「とてもおいしいですね!」
ケーキの山に飛びついて食べる椿。
満面の笑みでこちらを向いたその顔はとても幸せそうである。
「うーっ!」
敦美に抱かれている沙耶は大興奮。
まあ、甘いものに関しては普段から掃除機食いをするような子なので、こういう環境で興奮しないわけがない。
「はぁ、好きにしてください」
とりあえず発信機がわりに首輪をつけておいて、沙耶を地面におろす。
……赤ん坊に文字通り首輪をつけるとは。
ただ、そんなことは大興奮中の沙耶にはどうでもいいようで、そのままハイハイで時速六十キロくらい出してチーズケーキの山に突撃していった。
「聞いていた通り……出てくるモンスターがそこまで強くありませんね。ただ、すごくおいしそうな匂いばかりで呆れるほど気が散りますが」
言いつつも表情が変わらない敦美ってどういう精神構造なんだろう。
「……おや?」
ふと視線を向けると、椿が高い位置にあるキャンディを取ろうと、ビスケットで出来た棒に穴を開けながら登っていた。
「ほっ!ほっ!よっ!」
敦美は『風属性魔法であそこまで飛んでいけばいいのに』と思いながらそれを見ていた。
「取れたですううう~~~っ!」
「うーっ!」
よこせえええっ!といった様子で主張する沙耶。
「むふふ~♪やっふ~!」
歓喜する椿。
だが、ズルッと、ガリっと、足を滑らせた。
「うにゃああああ~~~っ!」
落ちた椿は、そのままばふーんっ!とケーキに上下さかさまに突き刺さった。
ついでに、ミニスカートが完全にめくれて、かわいらしい白い下着が!
「……」
頭痛が酷くなってきた敦美。
「……助けてほしいですううう……」
もごもごしているが、ケーキの中から声が聞こえる。
「おバカさんですねぇ……」
敦美は風属性魔法で椿の傍までくると、両足を掴んでズボッ!と引っこ抜いた。
「むはーっ!ありがとうございます!」
「……元気な子ですね。本当に……」
常に元気なバカという点では、清磨と変わらない部分ではある。
ただ、椿の場合はその活力が尋常ではない。
清磨と関わっていると苦労する敦美は、椿に対してかわいらしさの前に疲労がやってくる。
……分かってくれないのかこの思い。




