第千百六十一話
さて、敦美にとっては思ったより大変なことになっている。
相変わらず椿は『むっはー!』とか『ちっかちっかぷー!』とかわけのわからん事(沙耶語)を連呼していて会話不可な状態になっているのだが、事は大きい。
カードダンジョンのボスは標準装備。
これが何を意味するのかとなれば、『自分がカードを手に入れたとして、可能性として何ができるのか』ということを考えれば見えてくる。
その『ボスが持っているスキルの強化』だ。
ポイントか何かを手に入れて、それを消費することで強化する。
十分あり得る話だ。
椿いわく、自分以外には使えないそうだが、そうだとすれば清磨のそれよりも性能は劣る。
(まあ、無いのなら奪えばいい。というのが実際のところある)
ダンジョンというのは、ポイントを得たいと考えている企業のようなものだ。
そのポイントの獲得方法は異なるだろうが、人間が金を稼ぐのと同じように、ダンジョンはポイントを稼いでいる。
それだけのことだ。
(今のところ、カードダンジョンの動きは大きい。正直、どんな手を使ってきても不思議ではないんですよねぇ)
再登場したカードダンジョンだが、以前よりも強化されているため、中には『被害者』もいる。
この被害者というのは純粋な意味でダンジョンにとって『利益』である。
(因子、という強化アイテムがあって、それを使うことでモンスターをかなり強化できる。ただ、その性能がかなり高いですね。正直……カードダンジョンを作る意味がほぼない。求めているのは、『最高値移行』に関することで間違いないでしょう)
自分しか強化できないとしても、ポイントを注ぎ込めば、強化の幅が上がり、スキルそのものが次のステージに移行することは考えられる。
それくらいしか求めていないのではないかと敦美は考える。
(……初登場で、撤退があまりにも潔さすぎる。ダンジョンの全てを活用しようという気概が全く感じられなかったことを考えれば、何か一点。ダンジョンを利用することで使えるものがある。それが、最高値移行に関連すると考えれば……もちろんこれがすべてだというつもりはありませんが、間違ってはいないでしょう)
これが何を意味するのか。
敵にとって、時島清磨が無関係ではないのだ。
スキルを奪う手段があるとかないとか関係ない。必要になれば取得すればいいのだ。
敵にとって、もとから清磨のスキルは『高性能』なのだ。
狙わない理由はない。
(……カードダンジョンに潜るのを部下だけにするということも考えた方が良いですね)
清磨の実力は、一部の『理不尽』に到達するほどではないものの、世界で見ても高水準だ。
そのため、カードダンジョン攻略が求められている。
しかし、それは止めさせた方が『身のため』か。
(……面倒な)
貴重な情報を敦美に提供したことに関しては、椿に感謝しなければならないだろう。
「む~……むふふ~♪この会社の人。体が柔らかい人が多いですね!」
……感謝しなければならないが、社員にハグりまくっている椿を見ていると、どこか『その気』が薄れていく敦美である。
(……なるようになれ。ということができればどれだけいいか……)
味方は多いだろう。
ただ、味方が自由過ぎるので、プラマイゼロ……いや、むしろマイナスだ。
(本当に疲れますね。とりあえず、会長にはキチンと言っておかないと)




