第千百五十五話
「清磨さーーんっ!」
「ん?どうしたんだ椿」
「……むっ?」
「いや、椿ちゃんの方からこっちに来たんだから、首を傾げられても困るというか……」
時島グループの会長執務室。
受付で誰かが対応して、それが清磨に届くよりも前に、椿は清磨がいるであろう会長執務室に特攻を仕掛けたようだ。
まあ、それだけならよくあることなのだが、突撃してきた後で首を傾げられると、基本行き当たりばったりなのは清磨も同じなので、会話が続かなくなる。
「……おや?椿さん。いつ来たのですか?」
敦美がタブレットを手に執務室に入ってくる。
「む?ついさっきですよ!」
「そうですか。それで、ご用件は?」
「むー……何かあったと思うんですけど、忘れました!」
満面の笑みでそういう椿。
ニパーッ!というか、元気いっぱいな様子なのは相変わらず。
とりあえず敦美はそれは分かった。
「そうですか。まあ、この会社はいろいろありますから、ゆっくりしていってください」
「むっはー!」
「……え、敦美、それでいいの?」
「逆に聞きますが、それ以外に解決策はないでしょう」
敦美はそれ以上は特に何も言わない。
椿に一般的な感性が搭載されていないことなど百も承知。
ならば、諦める部分は諦める。それだけのことだ。
実はこれ。全知神レルクスが感知する範囲で、敦美にしかできていなかったりするのだが……。
「むー……」
「?」
「……敦美さんって、胸、おっきいんですね!」
「ブフッ!」
ストレートな言い分に吹き出す清磨。
「ええ、これでもGカップはありますから」
「おおっ!私の一つ上ですね!」
椿ちゃんもデカい。
「むっはー!」
椿が敦美に突撃した。
そのまま敦美の胸に顔を埋めて、ぎゅうううっと抱き着く。
「むふふ~うふふ~♪」
大変うれしそうな椿。
敦美はよーしよーしと椿の頭を撫でている。
ただ……椿は誰かに抱き着くことは比較的多いのだが、多くの場合、その相手は満面の笑みになる。
しかし、敦美は完全に真顔だった。
「……敦美、なんで真顔なんだ?」
「別に表情を変える必要もないでしょう。疲れる会長をいつも相手にしなければならないので、一々感情を動かしていると胃薬が足りません」
「ごめんなさい!」
疑問を口にしたと思ったら謝っている清磨。
いつも通りである。
(……ただ、本当に何の関係もなく、椿さんがここに来るとは思えないというか……最近、魔法次官もピリピリしていますし、何かよからぬ『演算』がある気がしますね)
頭脳派と呼べるほど、参謀志願者ではない。
経営者であっても、大きな戦いに参加する意思はない。
しかし、時島清磨という男を支える上で、その考えは捨てなければならない。
(面倒な……沖野宮高校への入学は、『企業としての利益』は大きくなりますが、魔戦士としてのデメリットが大きいですね)
主に、実力に伴う責務といったところか。
確かに面倒な話である。




