第千百五十三話
「眠いです~……」
「……椿ちゃん。帰ってきたな」
「ああ。しかも、帰ってきて早々にまた寝るという……」
ダンジョンで椿が攫われたので、『残り香』を追いかけていた高志と来夏。
だが、椿が目をこすりながら自分で帰ってきてしまったので、正直に言えば拍子抜けである。
まあ、椿なので何が起こっても不思議ではないのだが、終始寝ぼけまなこで攫われて帰ってくるというのは、ひどく緊張感をぶっ飛ばす話だ。
「まあ、椿だし、とりあえず秀星には報告するけど、それでいいか」
「だな」
高志と来夏としては、自分よりも実力があり、真理に近い秀星には報告は必要と考えるものの、結局、『椿だからなぁ』というのが頭から離れない。
「……うー?」
沙耶は疑問に思う。
沙耶は、マクロードの因子が見れるのだが、椿からそれがなくなっているのだ。
取り除かれたのか、それとも何か別の要因があるのか。
それは沙耶にもわからない。
「うー」
「沙耶は何か見えてんのかな」
「かもしれねえな……いや、ちょっと待て、なんか、因子が見れるとか言ってなかったか?」
「あっ!そういやそんなことを秀星が言ってたな」
「うー……」
知ってんのかい。
そんな感想が漏れたような気がしなくもないが、仕方がない。
「どうする?もしかしたら、椿に因子が埋め込まれた可能性だってあるぞ。生物にも保管できるって言ってたし」
「うー!ううー!」
首を振りながら主張する沙耶。
「……ん?違うってことなのか?」
「さあ。よくわからんが……てことは、逆?」
「逆ってことは……もともと持ってたってことなのか!?」
「ダンジョンなんて攻略してる暇じゃねえ!さっさと帰って秀星に報告するぞ!おーい。椿ー!起きろー!」
「……むにゅ~。お母さんの体柔らかいです~……」
寝ながらめちゃくちゃニコニコしている椿。
「……幸せそうだな」
「体の中に何かがあっても、それらがすべて味方してんじゃねえの?」
「俺もそう思うわ。というか……椿って風邪をひいたことがないみたいだし、マジで体内の細菌すべてが味方してる可能性があるんだよな……」
結果として、何も警戒しないし、それで何も問題がない。
周りの胃にダメージを与えるだけ!
「……しゃーない。担いで運んでいくか」
「だな」
「うー……」




