第千百四十六話
「私を置いていかないでほしいですううう~~~っ!」
これだけで誰の言葉なのか一発で分かるのも珍しいっちゃ珍しいが、それはともかく、高志と来夏と沙耶が潜っているダンジョンに、椿が突入してきたようだ。
ちなみに、めっちゃ笑顔である。『\≧▽≦/』となっている。
おまけに足もなんだがグルグル足になっている気がする……気のせいじゃないか。
「椿ちゃん……来ちゃったな」
「秀星たち何やってんだろうな」
「うー……」
秀星や風香が相手していればそちらを優先しているだろう。
だが、こうしてきてしまった以上、秀星や風香は個別に忙しいようだ。
セフィアすら相手していないとなれば尚更である。
「むふふ~♪ダンジョン探索といえば私ですよ!むっはー!」
決してそんなことはないと思う。
「うー!ううー!」
「むー!沙耶ちゃん、そんなことはありませんよ!」
「うっ?」
「むうううう!いくら沙耶ちゃんでも言っていいことと悪いことがありますよ!」
「うー……」
「ひどいですううう~~~っ!」
ここで結論を述べよう。
((全然わかんねぇ))
沙耶と完璧にコミュニケーションが取れるのは椿だけ。
これは全知神レルクスが明示したことなので間違いはないだろう。
ただ、コミュニケーションというのは、『二人の仲だけで完結する』という場合もあるので、椿から高志たちに伝わるということでは決してないのだ。
……意味ねぇ。
「……ていうか、椿ちゃん。どうしてダンジョンに?」
「むー……なんだか入りたくなったんですよ!」
「なるほど、そうか」
納得する来夏。
正直、『なんで?』『気分です!』というのが、椿の行動原理の上で九割を占める。
だからこそ、周囲で計画を立てる側は苦労するのだが、今更だろう。
「というわけで、モンスターをぶっ倒すですううう~~~っ!」
刀を鞘から抜き放つと、そのまま突撃していった。
「……う?」
沙耶がつぶやいた。
……何か、沙耶にしか見えていないものがあるのかもしれない。
実際、『悪魔の瞳』を限定的に使えるし……そもそも沙耶には、『因子』を見えている。
「……うー」
沙耶が椿としかコミュニケーションが取れないこと。
それはおそらく……これから面倒なことになることの要因でしかないだろう。
「うっ!」
ま、どうでもいいけどね!




