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第千百四十五話

 カードダンジョンの一つで暴れまわる高志と来夏。


 観察眼が優れている2人は、再登場前よりもモンスターが強くなっていることは理解している。


 しかし、日本中という視点で見ても、2人は上位に位置する魔戦士ということもあって、現在無双中であった。


「おーい来夏。なんか面白いモノあったか?」

「いやー……特にねえな。小っちゃいバールで沙耶がダンジョンに入ってきたことくらいだ」

「う?うー!」

「あ、沙耶ちゃん。来ちゃったのか」

「うー!うー!」

「おーよしよし、何て言ってんのかわかんねえけど、一緒に行こうぜ~」


 来夏が沙耶を笑顔で抱き上げながらそんなことを言う。


 ……沙耶がバールで入ってきたことに対しては何も言わないけど、もういいのかな?


「……ふと思ったんだが、バールで一気にここまで来れるんなら、ここからバールを使っておくに行くこともできるんじゃないか?」

「確かに!沙耶、バール貸してくれ」

「うー」


 赤ん坊である沙耶専用サイズ、要するにおもちゃのバールを渡す。


「……小さすぎるな」

「ああ」


 普段は両手でしっかり握って振り下ろして空間をぶち割っている。


 だが、手のひらよりちょっと大きい程度の大きさでは、それは不可能だ。


「沙耶はどうやって空間を割ったんだろうな」

「さあ……沙耶、やってみてくれ」

「うー」


 バールを受け取る沙耶。


「うっ!」


 振り下ろすと、ピキッ……と小さいヒビができた。


「おおっ!……ん?全然割れてねえな」

「赤ん坊の腕力だからなぁ」


 いや、パフェを掃除機食いしたり、北海道から関東まで乗り物なしで行けることを考えると腕力関係なさそうだけど。


「オレたちもバールがないと空間に割れないからな」

「ああ。沙耶もそこは同じだろうし……どうしたものか。すっごく時間かかるぞこれ」


 試しに高志がバールを貰って振ったが、空気をスカスカさせるだけで特に何も起きない。


「うーん。どういうことなんだろうな」

「ギャグ補正だし、『行動』じゃなくて『手順』に関係するとか?しっかり握って、思いっきり振り下ろすという『手順』に関係するとなれば、さすがにこの大きさは無理だろ」

「だな。しゃーない。ちょっと面倒だけど、普通に進むか」

「うー!」

「……思うんだが、沙耶って、このあたりのモンスター。倒せたりすんのかな」

「いやー……遭遇しても殺されない確率はめっちゃ高いけど、逆に倒せるってことはないと思うぜ?」


 ギャグ補正に理屈を求めるな。と言いたくなるような会話だが、一応、制限的なモノはいろいろあるようだ。


 ……まあ、存在そのものがギャグみたいなものだから、仕方ないね。


 ★


「……データでは知っていたが、本当に何の変哲もないバールで空間を割れるのか……それっ!……うん。私には無理だな」


 どこかで、ラスボスが呟いたらしい。

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