第千百四十四話
カードダンジョンの再出現によって、アトムの命令で魔法省の仕事が増えた。
とはいえ、それまでのいろんな業務をアトムが捌くようになったので、全体として末端の人間の業務量は変わらないという、『そもそも魔法省ってアトム一人でいいんじゃね?』と思わざるを得ないような状況になっている気がしなくもない。
しかし、こういう緊急事態のために、余裕の確保ということで人を集めているということになるので、アトム個人としては何も問題はない。
アトムはこう見えて、無駄とか余裕とか大好きである。
いざという時に真価を発揮するからだ。
魔法省という、日本に大きな影響を与える立場で、なおかつ、『なーんか秀星って疫病神っぽいし、いろいろ起こりそうなんだよなぁ』という、的を得ているようで失礼の極みのようなことを考えた結果、無駄とか余裕をたくさん抱えている。
言い換えれば、初期の対応速度がすさまじいのだ。
「……うーん。やっぱりちょっと、強くなってんな」
特攻服を身に包んだ高志は、カードダンジョンの中でオーガをワンパンで殴り飛ばしながらそんなことを言った。
セリフと行動が全く適合していない。というフレーズをよく聞くが、マジで言葉通りである。
「敵側がそれ相応にやる気を出す気になったってことか?」
「ま、そんなところだろうな」
来夏も大剣でオーガの胴体を両断しながら高志に聞いている。
高志としても、来夏の意見には賛成のようだ。
……なんだかすごく、納得できないものがいろいろある気がしなくもないが、まあ、こいつらに関しては、ツッコミどころとモヤモヤで構成されているようなモノなので、今更と言えば今更である。
「……しかし、カードダンジョン出現からまだニ十分なのに、オレたちに指示が飛んでくるとは……アトムってエグイな」
「一体どんなマニュアル作ってるんだろうな……」
「職員に聞いたことがあるけど、紙に書ききれないくらい多いから、電子機器でどうにかしてるらしいぞ」
「マジか」
「マジだ」
結論。アトムは異常。




