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第千百四十話

「野良猫の中からも因子が出てくるなんてな……今までは無機物にしか入ってなかったのに、一体どういう変化なんだ?」

「できなかったけどできるようになったってことなのかな」

「いやぁ……多分そこまで単純じゃないな」


 猫の腹をなででじゃれつく椿を尻目に、秀星は手に持った因子を見て、どうしたものかと思う。


「他の生き物にも入ってる可能性があるんだよね」

「あるだろうなぁ……ただ、沙耶じゃないと発見できないぞ」

「……じゃあなんで椿ちゃんは分かったのかな?」

「知らん。正直、『椿だから』ってことで、強引に納得しようとしてるところだ」


 椿は不思議な子だからね。何が起こっても不思議じゃないのさ。


 ……それでは困るんだけど。


「それで、どうする?」

「とりあえずラターグには報告しておくか。しかし……強化アイテムだから、生物に入れても強化されると思ってはいたが、単純に保管として生物に入れてるのは初めてだな」


 椿が背中を叩いただけで口から出てきたとなると、因子と猫はなんの融合も適合もしていない。


 ラターグとの研究では、有機物で因子の周囲を満たすと強制的に融合しようとしていたのだが、何か別の処置を施すことで分かるようになるのだろうか。


 その処置ができなければ、生物に『保管』などできないので、まあできるのだろうが……。


「何らかの処置が施されてたんだな」

「なんで過去形なの?」

「口から出てきた瞬間、その処置がすべて解除されてるからだ」


 処置が施された形跡はもう残っていない。


 いつも通りの因子だ。


「……本当、秘密主義っていうか、解析が困難な物しか出さないのが得意な敵さんだな」

「用意周到っていうか、経験値が凄いっていうか……」

「まあ、代わりに動きは相当遅いみたいだが……」

「時間の掛け方が普通の人間と全然違うよね」

「ラターグも言ってたな」


 人間の寿命は、現代の医学だと大体百年ちょっとが限界だ。


 しかし、魔力というのは基本的に『安定』を求める物質であり、その中でも、『神力』の安定感は抜群である。


 この安定感は体の構造にも影響を与えるし、そもそも神々はこの神力のみで体を構成しているので、寿命という概念がないのである。


 それくらい時間にルーズだと、確かに人間のスケジュールは該当しない。


「……どうするの?」

「俺が考えても煮詰まるだけだからなぁ。アトムにでも相談してみるよ」


 困った時は魔法次官である。

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