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第千百三十八話

 どのような状況であるにせよ、椿という少女が来ることは歓迎されることらしい。


 常に笑顔で、誰にでも優しく、活力にあふれている。


 沖野宮高校の生徒たちは、午後はダンジョンに潜ってノルマをこなす必要があるので、本当に椿が近くに来てしまうと大変疲れるのだが、元々、遠くで眺めているのがちょうどいい可愛さである。


「にゅやあああ!むふうううう!もおおおおお!」


 沙耶語(暫定)で吠える椿。


 何を主張したいのか周りにはさっぱりわからないが、まあ、こんな光景を見るのも慣れたものだ。


 ……冷静になってみると、見た目が中学生くらいのロリ巨乳が奇声を上げているということになるような気がするのだが、慣れていいのだろうか……いいんだろうね。椿だし。


「椿ちゃん。どうしたの?」

「……特に何もないですよ?」


 風香に質問されて首をかしげる椿。


 ……風香は、椿が特に何もなくても騒ぐ子だということを今思い出した。


「……む!」

「?」

「……むむーっ!」


 いやわからんよ。


「お菓子が食べたいです!」

「買いに行こっか」


 そういうことを即答できる風香はきっと、特殊な訓練を受けていると思う。


「やっほおおおおおい!」


 そのままピューーーッ!と走り去っていく椿。


 風香はそれに追走していた。


 ……で、それに対して、秀星はシュールなものを見るような顔になっていた。


 実際、椿は満面の笑みでグルグル足でピューーーッ!と走り去っており、風香はほぼ真顔で早歩きみたいなフォームで付いていく。という状況を見て、『シュール』という言葉以外に思い付くのなら教えてほしいものだ。


 当然のようにどちらも美少女であり、活発とお淑やかという真反対な印象を与えるのに、やっていることはキング・オブ・シュール。


 そして……周囲にいる人間は、そんな2人を温かい目で見守っている。


(……世も末だな)


 誰の育て方も間違っていない。


 ただ、椿は誰が育てようと椿なのだと、秀星は思う。


「お父さん!お父さんもお菓子を買いに行きますよ!」

「え、俺も混ざるの?」

「秀星君。余計なことを考えてるから椿ちゃんのセンサーに引っかかるんだよ」

「……」


 ぐうの音も出ない。


 実際、風香が言っている程度のことですべての説明がつきそうだからだ。


「はぁ、わかったよ……セフィアに車の運転してもらうぞ」


 同棲以上事実婚未満みたいな微妙な立ち位置であり、風呂くらいなら椿を含めて一緒に入るくらいの仲ではあるが……こういう所で若干の『疲れ』が出るところを見ると、秀星と風香では、風香の方が大人ということになるのだろうか。


 いや、単純に、何かの『沽券』を守ろうとしているのか。


 椿と一緒にいる以上、それは不可能だと思われるのだが……今更か。

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