第千百三十六話
「ユキさんが買って来たお菓子、貰ってきました!とってもおいしいですよ!」
元気いっぱいな表情で、椿がラターグの屋敷に戻ってきた。
「……秀星君」
「なんだ?ラターグ」
「やっぱり、椿ちゃんが帰ってくると、雰囲気変わるよね」
「何をいまさら」
実験室ではなくリビングでくつろいでいた秀星とラターグ。
椿が元気よく入ってきて力が抜けたような表情になっているが、まあ、仕方のないことか。
散々よくわからないものを見てきたはずなのだが、それでも、気持ちの切り替えの速さは世の中の人間の中でトップレベル。
要するにめっちゃ笑顔なのだ。何がそんなに楽しいのかよくわからんけど。
「あ、そういえば、因子の無力化?の実験は終わったんですか?」
「あー。それだけどね。大体見えてきたから大丈夫だよ」
「おおっ!ついに分かったんですね!」
「けっこう怠かったし、かなり制限も多いけどな……とりあえず、敵のボスの部下をどうにか制御することはできるかな」
「上の方は分からないけど、末端が機能不全になることは確定だね」
「ふむふむ……ふむむ!」
よくわかっていない椿。
「よくわかりませんけど、やっふー!って感じなんですね!」
「「わからん……」」
誰か翻訳してくれ。
「あ、そういえば、レルクスさんのところに行く前に、変なところに行ったんですよ!」
「変なところ?」
「何かの装置ですかね?ボタンを押したら草原につながったんですよ!」
「そんなものが……」
「それで押したら……マクラさんに会ったんですよ!」
「誰?」
「僕と気が合う人っぽい感じがするけどね」
……確かに、フルネームを略したらマクラになり、草原でダラダラできるというのはラターグに似ているような気がしなくもない。
「いろいろ話しましたけど、なんかいろいろはぐらかされたんですよね」
「初対面の人に全部話すような人はいないよ」
「そうでした!」
今までどんな人間関係を築いていたのだろうか。かなり謎。
「とりあえず、お菓子を食べますよ♪」
ユキからもらったお菓子を出す椿。
……さっきから、薄氷の上を歩いているような気がするのは、おそらく、気のせいではないだろう。




