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第千百三十六話

 チーン……。


 今の椿の表すならば、おそらくそんな言葉が適しているであろう空気になっている。


「……む、むう。全然わからないですううう……」


 ソファでぐったりしている椿。


 どうやら、本当にレルクス相手に遊ばれたようだ。


 椿がぐったりしている様子というのはなかなか見られるものではない。


「これくらいは当然だ」

「何が起こっているのか全然わからないって、すごく嫌なことですね……」


 椿だって優秀な頭脳を持っている。

 未来で椿の家庭教師を務めているのはセフィアだろう。きっと教え方が悪いということはほぼないはずである。


 だが、セフィアだって確かに性能としては高いし、他の神器の影響だって受けているが、それでも一つの神器の力でしかない。


 秀星の所有物だからと言っても、限度はあるのだ。


 そして、全知神レルクスは、その程度の限度など関係ない。


「私はレルクス様が何をしていたのか全部わかりましたけどね~」


 神兵長のユキが、メイド服のフリルを揺らしながら椿の前に紅茶を置く。


「さすがですね!」

「ふふん!私は神兵で、カテゴリ的には人間ですけど、実は秀星さんよりもスペックは上ですからね!」


 圧倒的な叡智の結末すらも知るレルクスにとって、人間一人を教育することなど、何も難しいことではない。


 レルクスが育てると判断した以上、ユキのもともとの素質だって相当なものだろう。


 彼が一度育てると決めたら、当然、ユキのスペックは相当なものになる。


「今の私がユキさんくらい強くなることってあるんですか?」

「ないよ」

「即答!?」


 愕然とする椿。


「そもそも秀星を超えられない君に、ユキでスペックで勝てるわけがないだろう」

「修行すれば大体のことは出来ますよ!」

「全知神である僕のプランを超える修業ができるわけないだろう」

「確かに!」


 レルクスという存在の何が反則なのかと言われれば。多くの人間は『存在そのもの』と答えるほどだからな……。


「……むっはー!よくわからんときは全部投げ捨てて本能に従った方が良いんですよ!むっふー!」


 雑になった椿である。


 まあ、普段からそういう選択を取り続けているので、椿らしいと言えば椿らしいか。


 それで許されるというのもまた、椿が椿たる要素である。

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